水しぶきは覚悟 涼やか「裏見の滝」10選
水しぶきなんてなんのその、目の前に神秘の景色が広がる。
目利きが推す「裏見の滝」10選。夏の暑さもはじけ飛ぶ。
地殻変動が生む 荘厳な信仰の地
断崖の上から流れ落ちる滝を前にすると、地殻変動が生んだ地球のドラマを想起せずにはいられない。上位に入った九州の滝はいずれも、阿蘇山の大爆発など強大な地殻変動が生み出した。1位の鍋ケ滝の裏側には、大きな空間がぽっかりと口を開けている。約9万年前にさかのぼる地層の重なりが、今もはっきりと見て取れる。
滝はその荘厳な姿ゆえ、昔から信仰の対象にもなってきた。4位の阿弥陀ケ滝は、白山信仰の修験道の地。7月には一般参加者による「みそぎ祭り」が行われる。3位の慈恩の滝には竜の伝説が残り、安産や開運の祈りの対象だった月待の滝(7位)は今、パワースポットとして人気を集める。
裏見の滝を訪れるなら、水しぶきを浴びるのは覚悟の上でのぞみたい。とはいえ、雨の後などは、滝裏の空間にも水が滴り落ちるので、雨具を着用した方が無難。足元は雨やコケで滑りやすくなるので、細心の注意を。集中豪雨などで遊歩道が通行止めになることもあるので、出かける前には、最新情報を確認したい。
幻想的な水のカーテン(熊本県小国町)
阿蘇山の外縁の森の中に、静かにたたずむ姿は幻想的。優しく落ちる滝に木漏れ日がきらめき、苔(こけ)むす岩が鮮やかさを増す。まるで不思議の国に迷い込んだかのようだ。高さは10メートルと小ぶりだが、滝の落ち口は水平に20メートル広がっている。「幅広に落ちる姿はまさに水のカーテン」(大塚貴之さん)だ。お茶のテレビCMにも登場し、一気に知名度が上がった。
優雅な姿と対照的に、成り立ちは荒々しい。約9万年前、阿蘇の巨大噴火の火砕流がこの地にも達し、川が流れていた砂礫(されき)の層を覆いつくした。熱と圧力で固まった岩盤に断層ができ、滝が誕生した。その後長い時間をかけて、岩盤下の柔らかい地層が水で削られ、裏側に大きな空間が生まれたという。
「深く大きくえぐられていて、軽く40~50人は入れそうなスペースがある。裏側からみる景観は幻想的」(佐竹敦さん)。「フォトジェニック度満点の美しい滝。滝裏に入ると白いレースカーテンがかかったような空間が広がる」(坂崎絢子さん)。そのカーテン越しに、周囲の森が四季折々の姿を見せる。大人300円、小中学生150円。
(1)JR阿蘇駅などから車(2)小国町商工観光係(電話0967・46・2113)
轟音とどろく豪快な風景(長野県高山村)
長野と群馬の県境に近い山中で、「その名のとおり、雷鳴のような轟(ごう)音をとどろかせている」(森本さん)。松川渓谷に注ぐ水を集めた滝は水量が豊富で豪快そのものだ。「春は新緑、夏は清涼、秋は紅葉が楽しめる」(富本一幸さん)
この滝は裏見から始まる。遊歩道を進むと側面から裏側に回り込む。岩壁が屋根の庇(ひさし)のようにえぐられ、「川水が飛び出してくるさまや、落下していく水の粒、滝つぼから上がる水煙などの様子が位置を変えながら見られる」(加藤庸二さん)。
遊歩道には「滑落防止の柵も設けられているが、ぬれるので雨がっぱか傘を持って行くのがお薦め」(枝沢茂樹さん)。さらに進めば、落差30メートルの滝が全貌を現す。冬期閉鎖。
(1)長野電鉄須坂駅から車(2)信州高山温泉郷観光協会(電話026・242・1122)
昇り竜の伝説に思いはせ(大分県日田市、玖珠町)
圧倒的な水量で突き刺さる怒とうの滝。滝つぼに近づくと、ひんやりした風が巻き上がってくる。「2段の滝は男性的で爽快」(森本泰弘さん)。上下段を合わせ落差約30メートルの滝には昇り竜の伝説が残る。滝に住む竜の命を旅の僧が助けた恩返しに、天に昇り土地を潤す雨水を降らせたという。
裏見も迫力満点。「遊歩道が整備され、滝の魅力を知るにはうってつけ」(鈴木厳朗さん)。地元の人によれば「夏の午後4時ごろ、滝つぼに虹がかかることがある」。日没から2時間は緑色のライトで浮かび上がる。
(1)JR杉河内駅から徒歩(2)玖珠町観光協会(電話0973・72・1313)
北斎も絵にした歴史ある滝(岐阜県郡上市)
落差60メートル。滝つぼの周囲は開けた空間になっていて、「滝を中心にグルッと一周して、滝をすべての角度から眺められる」(佐竹さん)。遊歩道も整備され、安心して楽しめる。
「葛飾北斎が浮世絵で描いたこともある歴史ある滝」(富本さん)。滝裏には洞窟があり、阿弥陀さまが現れたという伝説が残る。「参道から1歩踏み入れると、俗世間から隔離された落ち着いた環境となる。滝周辺は、日も射さず非常に幻想的な雰囲気を醸し出す」(鈴木さん)
(1)長良川鉄道北濃駅から車(2)白鳥観光協会(電話0575・82・5900)
異世界に迷い込んだような洞窟(島根県雲南市)
中国地方を代表する名瀑。落差40メートルの雄滝と、同30メートルの雌滝からなり、激しく流れ落ちる様は、まるで昇天する竜のように見える。「岩盤の表情や水量など全体的に勇ましい雰囲気。雲南の濃い自然が味わえる」(坂崎さん)
裏見ができるのは雄滝。大きな洞窟があり、滝観音がまつられている。「まるで霊場であるかのような独特で厳かな雰囲気」(佐竹さん)。「大きく開いた竜の口内に入り込んだ錯覚に陥る。裏見はどこか異世界に迷い込んだかのようで神秘的である」(林俊宏さん)
(1)JR木次駅から車(2)雲南市観光協会(電話0854・42・9770)
広がる空と落水 圧巻そのもの(大分県宇佐市)
巨岩や渓流の景色で知られる耶馬渓にあり、西椎屋の滝、東椎屋の滝と合わせ「宇佐の3滝」と呼ばれる。見どころは雄滝と女滝に分かれた2つの筋が落差65メートルを一直線に落下する豪快さ。滝見台から全景を眺めた後、歩道を下れば滝裏に回り込める。
「真っすぐに落ちる滝を裏側から見上げれば大きく広がる空と落水を楽しむことができる。スケール感のある滝」(深沢章宏さん)。「日本有数の落差がある裏見の滝で、落ち始めから、滝つぼへと注ぎ込むまでの様子は圧巻そのもの」(佐竹さん)。6、7月の午前7~8時、天気に恵まれれば滝に虹が架かるという。
(1)JR別府駅から車(2)宇佐市観光協会(電話0978・37・0202)
安産・開運を祈る場に(茨城県大子(だいご)町)
日本3大名瀑の「袋田の滝」の近くにある落差17メートルの滝。普段は2筋の夫婦滝だが、水量が増えると子滝が現れて親子滝になる。この珍しい形状から、古くから月の出を待ちながら安産、開運を祈る場とされた。
川面に近い低い位置から滝裏に入り込める。「水量の多いときには迫力があり、水しぶきの中に虹がかかることもある」(加藤さん)。厳冬期には滝が完全氷結して氷瀑となり、「その姿を滝の裏側から見ることができる」(佐竹さん)。近くのそば店では、「湧水で打ったそばを食べながら滝見が楽しめる」(坂崎さん)。
(1)JR下野宮駅から徒歩(2)大子町観光協会(電話0295・72・0285)
四季の表情豊か 深山幽谷の味わい(岡山県鏡野町)
高さ約10メートル、幅6メートルと規模こそ小さいが、幾筋にも分かれて流れ落ち、「裏側からはキラキラと水滴が光るのが美しい」(坂崎さん)。滝裏の岩窟の中には不動明王がまつられている。「滝裏の岩屋にたたずむと深山幽谷の中に身をおいていることが実感できる」(富本さん)。滝を取り巻く四季の表情の変化も豊か。冬季には滝が凍って「氷瀑」が現れるという。
近くのわき水「岩井」は子宝の水としても知られる。毎年7月10日には不動明王の前で護摩をたく「岩井滝まつり」が行われ、多くの人が水をくみに訪れる。
(1)JR津山駅から車(2)鏡野町観光協会(電話0868・52・0711)
冬には巨大な氷柱に変身(北海道遠軽町)
高さ28メートルの滝は真東を向いており、不動明王がまつられている。例年7月28日には滝まつりが開かれる。「太い一本の滝で、雪解けの季節になるとその水量を増して、轟々と豪快に音をたてる。滝裏から眺めると、水のカーテンの向こうにうつる新緑の森と流れ行く川が一体となって景色をつくりだしている」(加藤さん)
冬になると滝は表情を大きく変える。滝は完全に凍りついて、巨大な氷柱へと姿を変える。1~3月の夜間には、滝の裏側からライトを氷柱に向けて照らすライトアップのイベントが行われ、荘厳で幻想的な世界を楽しめる。
(1)JR丸瀬布駅から車(2)遠軽町丸瀬布総合支所(電話0158・47・2211)
冬の氷瀑 タコの形に(長野県大町市)
水量は多くないものの、落差は50メートルある。春から秋にかけては、「霧状になった滝が優しく降り注いでくる景観を裏から見ることができる」(佐竹さん)。冬の氷瀑も見応えがある。頭上からゆっくり落ちる水がシャーベットになって積み上がり、白い大きなタコのような形になる。「見る角度によって円盤のようでもあり、ユニーク。岩壁も近代芸術さながらで見ごたえがある」(枝沢さん)
裏見の遊歩道もありぬれずに多方向からタコの氷を眺められる。訪問の際は氷がどれぐらい大きくなっているか確認を忘れずに。
(1)JR信濃大町駅から車(2)大町市観光協会(電話0261・22・0190)
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ランキングの見方 数字は選者の評価を集計し、点数化した。所在市町村名。(1)最寄り駅、(2)問い合わせ先。写真は1、2、3、6、7位岡田真。それ以外は地元の観光協会などの提供。
調査の方法 専門家への取材を基に29カ所の「裏見の滝」をリストアップ。公共交通や自家用車で比較的簡単にアプローチでき、初心者や家族連れも安全に見学を楽しめること、形状など見ごたえの観点から1~10位まで順位をつけてもらい、集計した。近づくのに危険が伴ったり、山中深くたどり着くのが困難だったりする滝は除外した。
今週の専門家 ▽枝沢茂樹(滝愛好家)▽大塚貴之(サイト「滝ペディア」主宰)▽加藤庸二(写真家)▽坂崎絢子(滝ガール)▽佐々木信一郎(サイト「滝のギャラリー」主宰)▽佐竹敦(書籍「日本の滝めぐり」著者)▽鈴木厳朗(滝愛好家)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽林俊宏(サイト「滝人Collection」主宰)▽深沢章宏(サイト「滝の引力」主宰)▽森本泰弘(サイト「瀧~Waterfall」主宰)
[NIKKEIプラス1 2018年6月30日付]
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