ベトナムの技術者を日本へ 33歳女性起業家の素顔
若手の労働力が不足する日本を、陰で支えるベトナム人女性がいる。30歳で起業、日本向けに技術者の人材紹介や通訳・翻訳を手掛けるトゥイーさん。「ベトナム人の若者と、日本での夢を語り合うのが楽しい」と話す彼女に、日本にかかわる仕事の実際と、仕事を通して見た日本について聞いた。
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ダン・ティ・フォン・トゥイ―(DANG THI PHUONG THUY)さん(33歳)。ベトナムの三大都市の一つ、ハイフォン市で、日本への人材紹介や通訳・翻訳、投資支援などを手掛ける会社を経営している。
トゥイ―さんが会社を立ち上げたのは2015年。ハノイ大学(当時はハノイ外国語大学)日本語学科を卒業後に日系企業に就職。仕事で日本に行ったこともあり、起業したいとずっと思っていたという。大学時代の同級生と2人で、地元の日系企業をターゲットに営業を始めたが、実績がないため当初はかなり苦労した。
そこで知名度を上げるため、地元で日本語レッスンの講座を開講した。さらに、日本語スピーチコンテストに2人で出場。優勝と2位を獲得したことが、日系企業に知ってもらうきっかけになったという。
15年に兵庫県の姫路経営者協会の支援を受けて、ベトナムで合同企業説明会を開催した。日本からは15社が参加し、その場でベトナムのエンジニア20人の採用が決まったという。以来、毎年ハノイで説明会を開き、これまでにIT、機械、電気などの分野で70人以上のベトナム人エンジニアを日本の企業に紹介した。
「私にとって、とてもやりがいのある仕事。大好きな日本語と日本の文化をベトナムの若いエンジニアに伝え、日本に行くという彼らの夢を一緒にかなえ、日本での成功を支援できるからです」(トゥイーさん)
ベトナムは若い人が就職しやすい環境のため、転職が多く在職期間が短いという。「若者を育てる環境がまだ整備されていないので、大学卒業後は海外に就職する人がどんどん増えています。これはベトナム企業だけではなく、ベトナムにある外資系企業にとっても課題の一つとなっています」
さらに、日系企業向けの人材事業も同業他社が増えて、競争が激しくなってきているという。
「日系企業はかなり高い条件を提示してきますが、ベトナム人の若いエンジニアの中には日本語をほとんど勉強していない人も多く、専門分野のスキルが高くても面接ではかなり厳しいこともあります。条件を満たす人がなかなか見つからないときは大変ですね」
通訳の仕事でもさまざまな苦労があるという。しかし「大変なことはあっても、『自分の成長やスキル、仕事のレベルを向上させるために、壁を乗り越えよう!』と思えてくるから不思議。やっぱり日本語の仕事が好きなんだと思います」。
日本のイメージは「安全で住みやすい国」。驚いたことは?
日本語を学び、仕事を通じて日本にかかわってきたトゥイーさん。彼女の目に、日本の人々や暮らしはどう映っているのだろうか。「日本は、きれいで安全で、住みやすい国。礼儀や規律が正しく、よく働くというイメージですね」。特に、他人に迷惑をかけないように気を使い、環境を守る意識が高いところが印象的だという。
逆にちょっと理解できないのが、家族とのつながりがゆるいことだそうだ。「多くの日本人の知り合いから、子どもが遠方で仕事や結婚をして、親の仕事を引き継がず、実家に戻る気持ちもないと聞きました。老人になったら、子どもとは住まずに老人ホームに行く人が多いとも聞きました。ベトナムでは親が老人になったら子どもが面倒をみることが多いので、ちょっと驚きました」
仕事で頻繁に日本を訪れるが、オフタイムは買い物と食事が楽しみだという。「日本製のものが大好きで、毎回日本に行くときは家族と友達のために買い物をします。化粧品やサプリメントなどをたくさん買ってきます。時間があれば、有名な観光地にも行ったりしています」
もともと食べ物の好き嫌いが多くて、生ものは食べられなかったそうだが、「仕事で日本に行くうちに、刺し身が食べられるようになりました」。その後、だんだん食べられる種類が増え、今は和食が大好きだという。
「最近、地元にイオンのスーパーができて、焼き肉のたれなど日本の調味料が買えるようになりました。週末にバーベキューをするときは必ず、日本の焼き肉のたれを買っています。友達にも大好評です」
現在は独身だが、育児にはとても興味があるという。「親戚やいとこには小さい子どもがいるので、週末に実家に帰ったとき、よく子どもたちと遊びます。いつか自分の子どもも欲しいなと思います」
ベトナムでは最近、日本式の子育て法が流行っているそうだ。「食事、運動、子どもとの遊び方などがインターネットでよく検索されています。お手伝いをしたり、自分で掃除したりおもちゃを片付けたりするような、自立した子どもがいいと感じるベトナムのお母さんが増えているので、ベトナムの育児法は今後変わるでしょうね」
毎日忙しい生活を送っているが、今後も多くのベトナムの若者を日系企業に紹介していきたいというトゥイーさん。これからも両国の懸け橋としてお手伝いをしていきたいと話してくれた。
(取材・文 GreenCreate)
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