2018/6/27
オーストリア、ウィーン歴史地区 ドナウ川のほとり、ウィーンにあるバロック式の城と庭園は、オーストリア・ハンガリー帝国の首都としての長くて豊かな歴史を象徴している。この街は、モーツァルトやベートーベン、シューベルトなどが活躍した「音楽の都」としても知られている。2017年、ウィーン歴史地区は高層ビルの建築計画をきっかけに、世界危機遺産に登録された(Photograph by Getty Images)
パレスチナ自治区、オリーブとワインの地 ナブルスとヘブロンの間に位置する中央高原地帯には、古代の棚田、農業用の塔、複雑な灌漑システムがあり、古代から農耕に使われてきた。現在もおこなわれている農法は、人類最古の農法のひとつと言われている。地域情勢が変化し続けていることから、2014年に危機遺産リストに登録された。ユネスコは、イスラエルが建設する西岸地区の分離壁によって「農民が何世紀も耕してきた自分たちの畑に行けなくなる可能性がある」と指摘している(PHOTOGRAPH BY ERIC MARTIN, FIGAROPHOTO, REDUX)
英国、海商都市リバプール リバプールの歴史地区とドック群は、現代ドック(船の建造や荷役のための港湾施設)技術の先駆けとなった。18世紀と19世紀の世界的な交易都市の一つであり、奴隷取引にも大きく関わってきた。2012年に街並みを大幅に変更する再開発計画によって危機遺産リストに加えられた(Photograph by Paul Thompson, Alamy Stock Photo)
イラク、サーマッラーの考古学都市 サーマッラーのモスク、ミナレット(尖塔)、宮殿は、1世紀にわたってチュニジアから中央アジアまでを支配したアッバース朝の遺産だ。バグダッドの歴史的建造物が破壊されてから、サーマッラーは建設当初の建築物、芸術、配置が残る唯一のイスラム帝国の首都となった。「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」に基づき、2007年に危機遺産に登録された(PHOTOGRAPH BY LYNN ABERCROMBIE, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
アフガニスタン、バーミヤン渓谷 ヒンズークシ山脈に位置するバーミヤン渓谷には、1世紀から13世紀にかけて作られた仏教の僧院や聖窟、イスラム時代の城塞が存在する。2001年、タリバンが2つの仏像を破壊し、世界を揺るがす悲劇となった。ユネスコ事務局長のイリナ・ボコバ氏は、こう述べている。「2つの歴史的な仏像は、私たちが共有する偉大な人間性の証として、1500年にわたって立ち続けていました。そして、アフガニスタンを荒廃させている紛争の中、アフガンの人々のために結集する文化の力をおとしめようとして破壊されたのです」(PHOTOGRAPH BY SHEFAYEE, AFP, GETTY IMAGES)
ミクロネシア連邦、ナン・マドール ナン・マドールは、ミクロネシア連邦のポンペイ島のそばにある100を超える小さな人工島群からなる遺跡。西暦1200年から1500年ごろに作られた石造りの宮殿、寺院、墓は、シャウテレウル王朝時代の太平洋の島嶼(とうしょ)文化を残している。マングローブの繁茂や高潮、石造建築の崩壊により、2016年に危機遺産リストに追加された(PHOTOGRAPH BY PAUL CHESLEY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
マリ、アスキア墳墓 1495年、ソンガイ帝国の皇帝アスキア・ムハンマドは、帝国の首都の豊かさと権力の象徴として、17メートルほどのピラミッド型建造物を建てた。ピラミッドだけでなく、2棟の平屋根のモスク、1つの墓地と広場がある。西アフリカのサヘル地域の泥建築技術を代表する建造物だ。紛争による破壊のおそれ、文化財の売買、修復作業の中断により、2004年に危機遺産リストに登録された(PHOTOGRAPH BY LI JING XINHUA, EYEVINE, REDUX)
シリア、古代都市ダマスカス アフリカとアジアの交差点に位置するダマスカスは、紀元前3千年紀に築かれた中東最古の町の一つ。約125の建造物群が、ヘレニズムからローマ、ビザンチン、そしてイスラム文明にまたがる豊かな歴史を象徴している。内戦が続く2013年、シリアにある6つの世界遺産がすべて危機遺産リストに登録された。その一部は登録後に戦闘によって破壊された。2015年には、著名なシリア人考古学者2名が殺害されている(PHOTOGRAPH BY SALLY HAYDEN, SOPA IMAGES, LIGHTROCKET, GETTY IMAGES)
ボリビア、ポトシ市街 標高約4000メートルにある銀鉱都市ポトシは、16世紀には世界最大の産業都市だったと考えられており、スペイン植民地時代の主な銀の供給元だった。現在も採掘が続いている鉱山だけでなく、独特のアンデスバロック建築、精巧な水道システム、人造湖でも知られている。採掘作業による環境の悪化が続いていることが懸念され、2014年に危機遺産リストに登録された(PHOTOGRAPH BY KARL-HEINZ RAACH, LAIF, REDUX)
チリ、ハンバーストーンとサンタ・ラウラの硝石工場群 パンパと呼ばれるチリの大平原は世界屈指の乾燥地。そこでは、60年以上にわたって、何千人ものパンピーノ(チリ、ペルー、ボリビアから集まった硝石工場労働者)が共同生活を送り、働いていた。世界最大の硝石工場であり、1872年に開業したときは、農業用肥料として使われた硝酸ナトリウムを生産し、北米、南米、ヨーロッパに供給していた。脆弱な建物が地震で被害を受けたことから、2005年に危機遺産に登録された(PHOTOGRAPH BY YADID LEVY, ANZENBERGER, REDUX)
マリ、ジェンネの旧市街 サハラ以南のアフリカ有数の古代都市ジェンネには、紀元前250年ごろから人が定住しはじめ、2000近くの泥でできた伝統的な建造物が残っている。イスラム様式の建物だけでなく、ジェンネ=ジェノ、ハンバーケトロ、カニアナ、トノンバという4つの遺跡からは、イスラム以前の都市構造についての手がかりが得られている。政情不安や古代の建設資材の劣化、都市化、浸食により、2016年に危機遺産リストに登録された(PHOTOGRAPH BY DAMON WINTER, THE NEW YORK TIMES, REDUX)

(文 Gulnaz Khan、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2018年4月23日付記事を再構成]

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