世界遺産なのに守れない? 危機遺産の深刻な現実

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/6/27
ナショナルジオグラフィック日本版

イエメンのシバームの旧城壁都市(Photograph by George Steinmetz, Getty Images)

世界遺産の中で、その存続が危ぶまれているものは「危機遺産」として指定されていることをご存じだろうか?

毎年、ユネスコは、美しい自然の景観から独創的な人工建造物まで、人類にとって顕著な普遍的価値をもつ文化遺産や自然遺産を世界遺産として登録している。

日本に限ってみれば、2015年に軍艦島で知られる長崎端島をはじめとする「明治日本の産業革命遺産」、17年に「宗像・沖ノ島と関連遺産群」がが世界文化遺産に。そして18年は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が6月30日に世界文化遺産として登録される見込みだ。

危ない世界遺産をリスト化

しかし、世界遺産になったからといって、永遠に残るわけではない。嵐に襲われて景観が破壊されることもあれば、開発によって動物の生息地が奪われたり、武力紛争で地域社会が荒廃することもある。その結果、何千年もの時を経てきた人類共有の遺産が危険にさらされる。

都市開発や観光開発、武力紛争、自然災害、放棄などのさまざまな脅威にさらされている世界遺産は、72年に発効した世界遺産条約第11条4項によって「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」にリスト化されている。その目的は、国際的な意識向上を図り、対策を推奨し、今後の被害を防ぐことにある。2018年6月時点で54の世界遺産が「危機遺産リスト」に挙げられている。

例えば、イエメンのシバームの旧城壁都市。ハドラマウト地方にあるシバームは、16世紀の高層建築が立ち並ぶ都市。1930年代、英国の探検家フレヤ・スタークは、この泥の高層ビル街を「砂漠のマンハッタン」と呼んだ。シバームは15年、内戦などの影響で危機遺産リストに追加された。

コンゴのビルンガ国立公園(PHOTOGRAPH BY CHRIS SCHMID, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

自然遺産で危機遺産となったのが、コンゴのビルンガ国立公園だ。アフリカ有数の火山帯にあるビルンガ国立公園には、さまざまな鳥や爬虫(はちゅう)類、カバ、そして世界的に絶滅の危機に瀕しているマウンテンゴリラが生息している。ビルンガ国立公園は、94年に危機遺産リストに登録されて以来、20年余りの間にカバやゴリラの大量虐殺などが起きており、野生動物だけでなくそれを守るレンジャーたちも危険にさらされている。18年4月には、6人のレンジャーが殺害される事件が起きた。レンジャーへの攻撃は、18年に入って3回目だった。

次ページで、危機遺産に挙げられている各国の世界遺産を11点の写真で見ていこう。