私は静岡県沼津市出身で、幼い頃から魚が食卓に出てくる環境でした。ですから現役中は、冷凍庫にたくさん保存していたアジの開きなどを焼いて食べていましたね。米国で活動している時も、スーパーで買ってきて自分で焼いていました。こんなに手軽に調理できて体にいいファストフードはないと思います。

野菜や果物も好きで、これも欠かさずとっていました。中でも毎日食べても飽きないぐらい好物なのがトマトで、ナイフでランダムにそぎ落として、レモン1個分の搾り汁と塩をかけて食べていました。そして、残ったレモン汁はそのまま飲み干します。
トマトは水分やミネラルがとれますし、粘膜などの正常な働きを助け風邪などにかかりにくくするビタミンAの材料であるβ-カロテンも摂取でき、リコピンによる抗酸化作用もある。レモンはビタミンCが豊富です。でも、やっぱり自分が好きなものだから、食べ続けられたのだと思います。
競技生活の終盤は、米国の栄養学専門の先生に内臓にいいレシピなどを教えてもらって、野菜や果物を「バイタミックス(Vitamix)」のミキサーでコールドプレスジュース[注3]にして飲んでいました。こうしたジュースにすれば栄養素を吸収しやすくなります。
ただ、ミキサーだけに頼り切るのではなく、やはり野菜や果物そのものを歯でちゃんとかんで、食物繊維をとり、唾液を出したり胃で消化したりするという本来の食べ方も大事だと思います。食べることで消化器も日々トレーニングすることが必要でしょう。
アスリートにとって食べることは仕事です。でも、「この栄養素をとらなければいけない」と義務のように食べ続けるのは、ストレスになるだけで継続しにくい。本来食事は、ただ家畜のように腹を満たすだけではなく、楽しい時間であるものです。必要な栄養素を含む食べ物の中から、好きなものを見つけることが、習慣化するコツにもなるでしょう。本当に自分の体が欲しているもの、必要なものは何かを見つけることも、トレーニングの一つだと思いますね。
会議前のランチでは炭水化物を控えめに
集中力を高めるには、食べ方も意識しなければいけません。例えば、ビジネスパーソンであれば、午後イチの会議で集中できるようにランチには何をとればいいかと考えることは大事でしょう。
ラーメンとライスなど炭水化物を多く摂取するランチセットを選んだり、お菓子やジュースで空腹を満たしたりすれば、当然一気に血糖値が上がり、眠気が襲って集中できなくなります。であれば、どんな食事をどれくらい食べれば集中しやすくなるのかと調べて実験するなど、自分にとってベストな食事を見つけていくことが大事になります。
夏バテで食欲がないときも、やる気や集中力は低下しますから、小分けにして食べる回数を増やしたり、疲労回復が期待できるビタミンB1を摂取するような食事を選んだりすることは大事になります。夏野菜、果物から水分とミネラルを補給したり、冷たい飲み物を控えて消化吸収機能を低下させないようにしたりすることも意識するといいでしょう。こうした心がけも、仕事に集中するためには欠かせない要素だと思います。
(次回に続く)
[注3]「低温低圧圧縮方式」という製法で搾り出したジュースで、食材の持つビタミンや酵素を損なわずに摂取できる
(ライター 高島三幸、カメラマン 鈴木愛子)
