ふるさと納税開始10年 人口増に寄与した使途も
生まれ育った故郷や応援したい自治体に寄付できるふるさと納税制度が始まって、4月で10年がたちました。ふるさと納税額は、2016年度で前年度比約70%増の約2844億円と増加傾向です。納税を巡っては従来の納め先と制度に基づく納め先の間で綱引きもあるようですが、使われ方はどうなのでしょうか。東京の一極集中と地方の人口減少が深刻な問題となっている中、将来を見据えた子育て世代の増加につなげたとする自治体もあるようです。
北海道中部の上士幌町は酪農が盛んで、人口は約5千人です。ふるさと納税に対する返礼品では、町内で生まれ育った「十勝ナイタイ和牛」などの牛肉が人気といいます。17年度のふるさと納税による寄付額は約16億7千万円でした。返礼品の費用や事務経費などを除いた分が町の政策の財源となりますが、約60%を子育て支援や教育の充実にあてています。
今では町で唯一の未就学児向け施設となった、教育と保育を一体的に実施する認定こども園を16年度から、10年間無償化しました。こども園での英語教育を担当する外国人も雇っています。上士幌町は16年、13年ぶりに人口が前年比で増加しました。移住者約300人のうち、約85%が20~40代でした。
東京に比較的近い地域の事例もあります。茨城県西部の境町は農業が盛んで、人口約2万4千人です。返礼品では、境町産のお米4種のセットが人気といいます。17年度のふるさと納税による寄付額は約21億6千万円でした。境町も政策に使われる約60%を教育関連、特に小中学生にあてます。年額5万円程度の給食費を半額にし、第3子以降は無料にしました。英語教育を担当する外国人を雇うこともしています。17年度、14年ぶりに人口は前年度比で増えました。
子育て支援や教育の充実は、納税者が地域貢献を感じられる使途のひとつといえそうです。東京大学の瀬田史彦准教授の研究室では13年、大都市圏から比較的遠い自治体の例として選んだ愛媛県宇和島市への08~12年度のふるさと納税者にアンケートを実施しました。
約340人から「どのような取り組みを応援したいか」について回答を得たところ、トップは約30%の産業振興だったものの、約15%が子育て支援や教育の充実を挙げました。「地域外からの期待を参考にしつつ、地域内で最適な使い道を決めるのがいい」(研究室の西村忠士氏)ようです。ふるさと納税に詳しい神戸大学の保田隆明准教授は「限られた人口の奪い合いも招きかねない中、無料化よりも質の向上に力を入れたほうが好ましい」と話しています。
橋本正裕・茨城県境町町長「子育て支援への制度活用、都市圏も理解を」
ふるさと納税の使途や返礼品についてどう考えているのか、茨城県境町の橋本正裕町長に聞きました。
――使途はどのように決めていますか。
「アイデアを思いつくにはメディアに触れ、国などの政策を参考にする。セミナーや研修会、勉強会もヒントになる。日々の情報収集の中で試してみたい事例があれば、実施した自治体へ足を運ぶ。町の議員や職員と一緒に行くのがポイントだ。情報が素早く共有化され、政策が具体化しやすくなる」
「使途を絞ることも重要になる。境町では若い世代、子供の数を増やすことに焦点を絞った。1981年には約6600人だった14歳以下の人口は、今や半分以下の約3千人だ。税収は減るし、雇用もどんどん減る。子供の数を減らさないよう努力するというのが、境町の政策の柱だ」
――高額な返礼品により返礼率が高まれば、ふるさと納税による寄付のうち、政策に使えるお金は減ってしまいますが。
「境町は、返礼率が平均すればおおむね3割になるようにやっている。返礼率に加え、ふるさと納税の仲介サイトの手数料の多寡も見逃せない。私が知る限り、手数料が5%というサイトもあれば、22%というサイトもある。実際に自治体に残るお金がいくらかというのをきちんと見てほしい。例えば、ふるさと納税サイトでも、返礼率を3割に抑えてもそこで取られたら意味がない」
「境町は手数料は5%と低水準に抑え、梱包から発送まで、(民間企業との共同出資で設立する)第三セクターで実施することで町に残る資金を確保している。自治体にどれだけお金が残り、地場にいくらお金が流れ、地域がどれくらい活性化しているかをみてほしい」
――東京からは税金が流出しているため、批判の声もあります。
「ある程度の年齢になると大学や短大、専門学校へ通うため、多くの若者が都市圏へ出て行ってしまう。地方に戻ってくる人はほんわずかだ。子どもが育つ過程で、地方は教育などに投資している。ふるさと納税制度を活用し、子育て支援をしようという自治体がある。子育て支援のためであればある程度は仕方ない、と従来の納税先だった都市圏のトップらには見てもらいたい」
(久保田昌幸)
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