金ピカや宇宙船型…旧ソ連のシュールな建築物が面白い

1991年のソ連解体後、旧東側諸国は中央集権から離れ、自ら道を作り上げることになった。ドイツ人写真家フランク・ヘルフォルト氏は、2008年から旧ソ連時代の車「ヴォルガ」に乗って、モスクワからカザフスタンのアスタナ、シベリアを回り、ソ連解体後の建設ブームに乗って現れた建築物を記録してまとめた。中には、奇抜に見えるものもある。氏の話を聞きながら、建築物を見ていこう。
「ロシアの街に行くと、どこも同じに見えます。モスクワからサンクトペテルブルクやノボグラードまで、同じような住宅ばかりです」と、ヘルフォルト氏は労働者のために設計されたアパートについて説明する。このような特徴のない建物の外観は、社会主義における市民のあるべき姿を象徴している。体制という機械の歯車の歯になれということだ。スターリンが建てた7つの超高層建築「セブン・シスターズ」は、長い間この規則の数少ない例外だった。この10年間に続々と誕生した新たな高層ビルは、ヨーロッパでも上位を争う超高層ビルであり、新たな時代の象徴である。
ソ連解体後の建築物のすべてが過去に決別しているわけではない。モスクワでは、2006年に竣工した超高層アパート、トライアンフ・タワーが「8人目の姉妹」の愛称で呼ばれている。スターリン様式を踏襲し、50年以上前の建築物と調和しているからだ。この街は、過去の威力を称賛しつつも、偉大な過去をしのぐという大望を抱いている。「いつでも自らを超えようとしています」とヘルフォルト氏は言う。
かつてソ連が支配していた地域でも、個性的な建築物が登場している。カザフスタンの首都アスタナでは、未来的なデザインや金ぴかのタワーが光景を一変させてしまった。

共通の歴史をもつにもかかわらず、これらの地域の独立後の発展は一様ではなかったと、ソ連解体後の中央アジアを専門とする美術史学者、カーシャ・プロスコンカ氏は説明する。ソ連時代に国造りは始まっていたものの、各国は自らの独自性を見いだす必要があった。
「個性は完全に消し去られることも、再構築されることもありませんでした。むしろ国の新たな上層部は、国際社会で自分たちの位置づけの重要性を確たるものにするために、選択的にその一部を忘れ去り、一部を特別扱いしようとしました」
しかし、ソ連時代の機能的な共同住宅とは違い、新たなプロジェクトで建てられた建築物は住民の本当のニーズに配慮していないようにも見える。写真にはあまり人が写っておらず、新築にもかかわらず空のビルもあるのだ。

ソ連の解体後20年以上続いてきた建設ブームは、最近になって落ち着きを見せ、地方都市はより現実的な建物に回帰している。しかし、建築物は今もそこにある。過去が否定されたのちに再び賛美されるという周期も繰り返されるのだろう。
次ページでは、ソ連解体後に現れたシュールな建築物を11点の写真で紹介する。











(文 Christine Blau、写真 Frank Herfort、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年5月23日付記事を再構成]
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