初夏、田植えを終えた水田が目に鮮やかな季節です。出羽富士の異名を持つ鳥海山の麓、庄内地域は水が育んだ素朴な暮らしや神秘的なスポットが魅力。山形県遊佐町を訪ねました。
湧水の恵みと数々の神秘的スポット
庄内平野の北端に位置する遊佐町は、鳥海山を源とする月光川(がっこうがわ)流域にあり、町のあちこちで鳥海山の伏流水が湧き出している湧水の宝庫として有名です。
日本海に沿って走るJR羽越本線の女鹿(めが)駅で下車。駅に近い女鹿集落にある「神泉の水(かみこのみず)」では、湧水を生活用水として利用しています。水をためる水槽は6つに分かれ、1番上が飲料用。2段目は野菜を洗ったり果物を冷やすのに使います。3段目は洗濯用ですが汚れがひどいものは4段目、赤ちゃんのおしめを洗うのは5段目と使い分けます。

そこから南に約1キロメートル、滝ノ浦集落の大鳥神社には、湧き水が滝のように流れる「滝の水」があります。町外からわざわざ訪れる人も多く、ポリバケツで水をくみに来たおじさんは「ここの水を使うとコーヒーがおいしいんですよ」と教えてくれました。
滝の水から約3キロメートル南に行った釜磯海水浴場では、砂浜に湧水が噴き出す「釜磯海底湧水」があります。昔は人がすっぽり入れる湧水もあり、海水浴の後に塩水落としとして利用したとか。現在はそこまで大きなものは見られませんが、砂浜からぼこぼこ湧き出る様子は実にユニーク。海底から湧き出ているのに真水というのが何とも不思議です。

釜磯海水浴場から山側に約16キロメートル入った鳥海山の中腹には「胴腹瀧不動堂」があります。ここではお堂をはさんで、湧水が二連の滝となって流れ落ちる胴腹滝が見られます。お堂を囲むように置かれた大小様々な岩はコケむし、上には石に彫られた仏像が配されて、まるでマンダラのような神秘的な空間をつくり出しています。