ピアニスト山田磨依 美しく香るフランス伝統音楽

4月27日午前、山田さんは客がいない日野市民会館大ホール(東京都日野市)で練習としてドビュッシーの「喜びの島」を弾いてくれた。デビューCDにも収めた1曲だ。さざ波や木漏れ日のように揺らめく音の明滅を、細部まで精緻に捉える絵画風の演奏だ。しかも全体の構成の中での音の大きなうねりも表現され、最後のクライマックスもしっかり築いている。

現代作品の演奏を反映した鮮やかなドビュッシー

ドビュッシーが1904年に作曲した「喜びの島」はアントワーヌ・ヴァトー(1684~1721年)の「シテール島への巡礼」という絵画を題材にしている。「いろんなコンサートで演奏し、ファーストアルバムにも収録したので、とても思い入れが強い。スキップするような楽しいリズムを左手で常に刻むところがすごく独特。魅力的だと常に感じて弾いている」と山田さんは説明する。演奏技術としては「リズムの中で流れを持って、いろんな色彩感を出しながら演奏することがとても難しい」。その一方で「演奏効果も高い。すごく好きな曲」と言う。

ダマーズとドビュッシーについて語るピアニストの山田磨依さん(4月27日、東京都日野市の日野市民会館大ホール)

音楽は人それぞれの記憶や経験を反映し、独自の世界を生み出して広がる。山田さんのドビュッシー演奏には、ダマーズという現代の音楽との出合いを通じて培った独自の表現力が加わっている。捉えどころがないと言われがちなドビュッシーの音楽が、彼女の手によって明瞭に鮮やかに構成される。これはダマーズ作品を聴いたときに感じる現代風のシンプルな印象、高精度の構築感に近い。さらにドビュッシー自身もヴァトーの絵画との出合いに触発されて作品を書いている。ダマーズからドビュッシーを経て18世紀前半のフランス美術にまで芸術体験が広がっていくのだ。

「フランス音楽は香りを運んできてくれたり、色彩を感じたり、音だけではなくていろんなことを体験させてくれる」と演奏する楽しみを語る。これから重点を置く音楽活動として「毎年、ダマーズの誕生日に彼の作品を中心としたリサイタルを開く」ことを挙げる。国際的に評価の高い若手チェリスト伊藤悠貴氏との共演でも実績があり、室内楽でも活躍が期待される。

「英国音楽にも興味がある。日本ではまだ知られていない英国やフランスの作曲家の作品を開拓していきたい」。教科書通りの定石の修練ではなく、父がフルートで吹いたダマーズの音楽との出合いを大切にし、素直に自らの音楽を育んだ山田さん。ダマーズ演奏の第一人者という独特の立ち位置から彼女の芸術世界が広がる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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