「元気の素」甲状腺ホルモン 多くても少なくてもダメ
不調が続く甲状腺疾患(上)
疲れやすい、集中できない、食べる量は同じなのにやせてきた、あるいは太ってきた――。こうした不調が続いているようなら、甲状腺の病気かもしれない。女性に多く、更年期障害や産後うつなどと間違われることもあるが、きちんと治療すれば元気を取り戻せるという。3回に分けて紹介する。1回目は甲状腺ホルモンが体内でどう働いているかを見てみよう。
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甲状腺はのど仏の下にある、蝶が羽を広げたような形の臓器。食べ物から摂取したヨウ素を材料にして、甲状腺ホルモンを分泌している。「わずか15~20gほどの小さな臓器だが、甲状腺ホルモンを"作り""蓄え"、血液中に"放出"している。これらがうまく回ることで、甲状腺ホルモンが正常に働く」と山内クリニックの山内泰介理事長は話す。
甲状腺ホルモンは全身の細胞を活性化させて新陳代謝を促す、いわば「元気の素」。子どもの成長に不可欠で、女性の場合は「大人の体に変わっていく思春期にも分泌量が増える」(山内理事長)。成人してからも健康と若々しさを保つ上で欠かせない。なお、両生類にとっても重要で、不足するとオタマジャクシはカエルになれないという。
ホルモンは多すぎても少なすぎても問題が生じる。「甲状腺ホルモンの場合、脳や心臓など全身の細胞に関わるため、様々な不調が現れる」と金地病院の山田惠美子院長。多すぎると必要以上に新陳代謝が活発になり、心拍数の増加や発汗、微熱などの症状が。逆に少なすぎると新陳代謝が低下して、心拍数の減少、寒がり、やる気低下などの症状が出る。症状は対照的だが、両者とも甲状腺が腫れてくるのは共通している。
甲状腺ホルモンが多すぎる病気の代表が「バセドウ病」で、少なすぎる病気の代表が「甲状腺機能低下症」だ。「バセドウ病は20~30代、甲状腺機能低下症は40~50代の女性に多い。いずれも甲状腺を"敵"と見なす自己免疫疾患」と山田院長と説明する。
そもそも自己免疫疾患は女性に多い。「詳しいことは不明だが、妊娠中の"免疫寛容"が関係しているという説もある」と山内理事長。胎児は遺伝子の半分が父親由来なので、母親にとっては"異物"。妊娠中には、これを排除しないように免疫反応が低下する仕組みがあるため、異常が起こりやすいと考えられる。実際、妊娠出産を機に甲状腺の異常が現れる例も多い。
山内クリニック(さいたま市)理事長。愛媛大学医学部卒業。野口病院、伊藤病院などを経て、2012年に甲状腺専門外来を開設。日本甲状腺学会専門医、内分泌外科専門医。著書に『症例解説でよくわかる甲状腺の病気』(現代書林)。
金地病院(東京都北区)院長。東京女子医科大学卒業。同大学病院内分泌内科(現内分泌センター)を経て、1991年から甲状腺専門病院の金地病院院長を務める。日本内科学会総合内科認定医、日本甲状腺学会専門医。
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2018年6月号の記事を再構成]
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