消えたトップの夢、思わぬ実現 シティバンクCEO
バーバラ・デソーさん(折れないキャリア)
懸命に登った山を頂上目前で諦めざるを得ない時どんな気持ちになるか知っている。でも人生は何が起こるかわからない。「最後まで夢を諦めないで、と後輩女性には伝えたい」
女子大を卒業して損保会社に就職したのは1974年。MBAを取って大手米銀バンク・オブ・アメリカに転じた。まだ女性の社会進出は進んでいなかったが、最初から目標は最高経営責任者(CEO)になることだった。大学に行けなかった父親の期待に応えたい思いもあった。
企業担当に昇格した時、「女性の担当者はダメ」と顧客企業が難色を示したことがあった。信頼を得るため自分でも奔走したが、励みは上司が先方に「バーバラは優秀。彼女が嫌ならうち以外の銀行を探して」と言ってくれたことだ。
ある上司が選んだ特命事業チームは半数が女性だった。社内は好奇の目で見たが、多様なアイデアを持ち寄り最高の成績を上げた。この経験から多様な人材が競争力になると学んだ。
自分の強みは聞き上手なことだと思う。会議では出席者全員に目配りし、関係者の意向をくみ取れる。その方が事業を進めやすくなるが、男性は自分が発言するのに夢中で耳を傾けない人が多い。女性への逆風を乗り越えるうち自然と身についたのもしれない。
結婚は早かったが、妊娠は管理職になってから。妊娠8カ月目に昇格した。当時の出産休暇は6週間だけ。職場に搾乳できる個室もない時代で、ロッカー室にこもったこともある。
金融危機を経て住宅ローン部門トップとなり、4人の次期CEO候補に入ったが、2010年に選ばれたのは自分より若いモイニハン氏。2年後35年勤めたバンカメを辞めた。別の道を探ろうと思った。
翌年に大手米銀シティバンクから事業責任者にと声がかかったのは想定外だ。半年後CEOとなり、消えたと思った夢が実現した。
今CEOとしてアジア拠点を回ると台湾など管理職の半数以上が女性の所も多い。米国も男性の育児休暇が入るなど様変わりした。キャリア女性が増え、娘を持つ男性幹部の意識が変わったことが大きい。自分は男だけの幹部会の居心地がよくても「娘がここで働きたいか」と考えると改革の必要性に目覚めるようだ。
(聞き手は編集委員 吉田ありさ)
[日本経済新聞朝刊5月28日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界