週末レシピ ビシソワーズ、日本のネギでもフランス風

料理通でない人でも、「ああジャガイモの冷たいスープね」と分かるほど日本でも定番になっている「ビシソワーズ(Vichyssoise、フランス語の発音だとヴィッシソワーズ)」。フレンチのビストロや、イタリアンのトラットリアなどで、夏の前菜としてよく登場するが、最近はレトルト食品としても商品が豊富にそろい、スーパーの棚をにぎわしている。
しかし、このスープは本来、ジャガイモを使っただけではビシソワーズと呼ぶことができないことをご存じだろうか。材料にはジャガイモと、「同量程度のポロネギ」を使用しなくてはならないのだ。ちなみに、ポロネギはフランス語で「ポワロー(Poireau)」。日本では、西洋ネギ、リーキ、リークなど呼び方は様々だが、本稿ではポロネギと記しておく。
ついつい気になって、レトルトなどの材料表記をチェックすると、タマネギだけを使っている商品がほとんど。試しに買って食べてみると濃度が薄く、これでは単なる「ジャガイモの冷たいスープ」になってしまう。
ただ、ポロネギは普通のスーパーでは入手困難だし、あったとしても高価だ。時期にもよるが、200円から800円くらいするだろう。無理して用意しなくても、ビシソワーズと似たような味を出す方法がある。今回は、それを紹介する。もちろん、ポロネギを使った本格的なビシソワーズを作りたい方には、必要な情報は添えるので参考にしてほしい。
ポロネギの代わりになるのは、下仁田ネギなど白根が太く硬めで肉厚なネギ。でも、下仁田ネギも旬は冬で、冷製スープが食べたいこの時期に見つけることは難しいだろう。そこで、救世主となるのがナガネギとタマネギなのだ。
<材料(4~5人前)>
ジャガイモ 4~5個 / ナガネギ 2~3本 / タマネギ 1~2個 / スープストック(今回はブイヨンの素を湯で溶いて使用) 400cc(2カップ) / 牛乳 500cc(2.5カップ)/ 生クリーム 200cc (1カップ) / バター 30グラム / 塩・白コショウ 各適量 / シブレット (アサツキなどの細ネギでも可) 数本
※ ポロネギや下仁田ネギなどを使用する場合は、ジャガイモと同重量くらい用意する

フランス料理だと警戒することなかれ。おおまかな工程はたったの4つと、いたってシンプル。
・野菜に火を通す
・ミキサーにかける
・クリームを加える
・味を調えて冷やす
<作り方>
(1)ナガネギとタマネギをスライスし、バターを溶かした鍋で色付けないようにいためる
ここできちんと火を通さないと、ナガネギ臭が残ってしまう。ネギ自体の水分で全体がしんなりとするようにいためると、ネギの甘みを存分に引き出せるが、白いスープなので焦がしてしまっては元も子もない。心配な方のために、電子レンジを使って作る方法も紹介しておく。
耐熱容器にスライスしたネギを入れ、ひとつまみの塩と分量のバターを加え、ラップをかけて4~5分加熱する。いったん取り出しネギとバターを混ぜ、再度ラップをして4~5分かけ、ネギに透明感が出てきたら鍋に戻し、焦らずにもう少しいためる。
ポロネギや下仁田ネギを使って調理している方への注意事項としては、ナガネギやタマネギとは火通りに違いがあるため、様子を見ながら加熱すること。

(2)ジャガイモの皮をむき、適当な大きさに切る
(3)ネギがトロトロになってきたら、ジャガイモと少量の塩を加えスープストックを注ぎ、煮崩れるまで火を通す
(4)(3)をミキサーにかける
さらにこし器やザルで裏ごしの作業をするのが、口当たりがなめらかに仕上がるコツだ。ミキサーがなければ、なめらかになるまで何度か裏ごししよう。
(5)鍋に戻し牛乳を加え、弱火にかけ沸騰直前まで温める。さらに生クリームを加え、サッと混ぜ合わせる
(6)塩、白コショウで味を調え、粗熱を取ってから、冷蔵庫でシッカリと冷やす。スープ皿によそい、好みで小口切りにした細ネギを散らしてでき上がり!
4人前にしてはたっぷりと出来上がるが、スープをメインにパンやサラダなどを添えれば、立派な一品料理に仕上がる。ガッツリと召し上がってほしい

ポロネギを使うか、ナガネギ+タマネギを使うかの差について、もう少し説明しよう。例えると、ソバの薬味にナガネギを使うか、タマネギを使うかのような違いといってよいだろう。ソバの薬味としてのナガネギは、そのシャッキリとした辛み成分などが役立つのだが、タマネギだと水分量が多いのでつゆの味を変えてしまい、辛みがナガネギのようには発揮されず風味も出ない。
だからと言って、タマネギを薬味として使ってもそれはそれでおいしい。それぞれおいしいけれど、味わいは別モノというわけ。また加熱した例だと、同じ牛肉を使ってしょうゆベースで甘辛く味付けされた料理でも、すき焼きにはナガネギ、牛丼にはタマネギが合うといったところか。
ところで、私が初めてこのスープを食したのは30年以上前、名古屋のとあるホテル内にあるフレンチレストランでのこと。日本のフランス料理店の多くでは、まだロールパンが添えられていたような時代だ。
コース料理の前菜として提供されたのは、ガラスが二重になった器の中に白いスープの上に、黄金色のコンソメのジュレがのったもの。器の間にはクラッシュした氷が入っていて、しっかりと冷やされた状態で提供された。これこそ、ビシソワーズ、もっと詳しく言うと、ビシソワーズにコンソメのジュレがのったスープ、「パリソワーズ」だった。
とても濃厚なのに、なめらかでおいしいと、ペロリっとたいらげたが、まさか将来、自分がスープの由来となった街、ヴィッシー(Vichy)に住むとは思ってもいなかった。
数年前、「イタリア小料理屋」と銘打っているカウンターメインの店で、ランチセットを注文したら「ビシソワーズ」がついてきた。カウンター越しに「私以前、ビッシーに住んでいたのですよ」と、張り切ってシェフに声をかけたところ、「ビッシーってどこですか? フランスですか?」とのご返答。
そっかあ、ビシソワーズという料理名は認識されているが、ポロネギを使う使わない以前に、ビッシーがフランスにある都市名だと知っている人は、まだ少ないんだなあ。

では、ビッシーはどこにあるのか?
ビッシーは、フランスのほぼ真ん中に位置するオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域、アリエ県にある都市だ。パリからは電車で3時間、フランス第2の都市であるリヨンからは電車で2時間の場所にある。街の中心部には温泉施設やカジノがあり、県名にもなっているアリエ川の向こう岸には競馬場などもあるため、保養目的に訪れるフランス人も少なくない。
ビッシーは、ジャガイモやポロネギの産地で、ここの郷土料理がビシソワーズなのかと想像してしまうが、実はそうではない。市内でビシソワーズを提供しているレストランを私は知らない。それどころか、フランスの飲食店でビシソワーズを食べたことは一度しかない。ジャガイモやポロネギはフランスのどこのスーパーでも手に入るとてもポピュラーな食材。家庭で簡単に作られている料理であり、わざわざレストランに食べにいくようなものではないらしい。
それならば、なぜビッシーがスープの名前になっているのか?
実はこのスープ、1917年に米国ニューヨークのリッツホテルで作ったのが最初とされる。そこのシェフがビッシー出身だったことから、こう呼ばれるようになったという説が有力だ。
食材を変えて、いろいろな味に挑戦する、それこそが料理の醍醐味だ。そして、やはり機会があれば、ジャガイモとポロネギを同量ほど使って作る本物のビシソワーズにも挑戦してほしい。
(世界料理探究家 T.O.ジャスミン)
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