頭でっかちのルーマニア巨大翼竜 独自進化で空飛べず
ルーマニアで40年前に見つかった顎の骨の化石が、翼竜のものとしてはこれまでで最大であることが分かり、学術誌「Lethaia」に発表された。翼を広げると9メートル近くになる巨大な種が、今の同国中部のトランシルバニア地方にかつて君臨していたのかもしれない。
白亜紀末期、海面は今より高く、捕食者だったこの翼竜がすむ辺りは島が連なる群島だった。全ての翼竜だけでなく、鳥として生き残った以外の恐竜も絶滅した、6600万年前の少し前のことだ。
新たに発表された翼竜は比較的がっしりしており、首が短く頭が大きかったとみられる。雑食の可能性があり、恐竜の卵、小型のワニ、淡水のカメ、大型の魚など、生息地である川辺の環境にいた生物を次々と食べていたのかもしれない。
「見つかっている中で最大の翼竜ではありませんが、下顎の骨としては、今まで採集された中で最大です。修復すると110~130センチにもなります」。トランシルバニア博物館協会の古生物学者で、論文の筆頭著者のマティアス・ブレミール氏はこう語る。
「このことから、かなり大型の翼竜だった可能性があります。翼開長は8~9メートルだったかもしれません」
この地域から見つかった巨大な翼竜は、これは現時点で3つ目のタイプとなる。つまりトランシルバニアは今や、驚くような姿を誇る空飛ぶ爬虫類の、もっとも生息密度が高い場所だったと胸を張れることになった。その面々には、2009年に発見され、研究者が「ドラキュラ」とニックネームを付けた大型種も含まれる。この種は最大の翼竜の有力候補だ。
ルーマニアで相次いでいるこうした翼竜の発見は、古生物学者たちの助けになっている。翼を持った奇妙な姿の彼らが、有史以前の生態系にどうように適応していたのかについて、解明がより進むからだ。
「トランシルバニアで化石の採集は100年以上行われましたが、翼竜については破片が数点あるだけで、ほとんど何も分かっていませんでした。16年前までそのような状態だったのです」とブレミール氏。「この10年で状況は大きく変わりました。さまざまな地点から、50を超す化石標本が集まっています」
頭の長さは胴体の3.5倍
今回発表された翼竜の化石は、現時点では巨大な顎の骨しか見つかっていない。もともと、この化石はトランシルバニアのハツェグ地域で1978年に発掘されたが、当初は翼竜だと認識されなかった。2011年、ブレミール氏はハンガリー、デブレツェン大学の古生物学者で、論文の共著者でもあるガレス・ダイク氏と共にブカレストの化石コレクションを訪ねたとき、翼竜との関連に気付いた。
種名が付いている翼竜としては世界最大級のハツェゴプテリクスも、このハツェグ地域で見つかっている。キリンほどの高さがあり、翼開長は最大で11メートル近くに達した可能性がある。今回研究された化石には、近縁であるハンガリーの翼竜、バコニドラコの顎と似ている点があった。このことから、ブレミール氏らの研究チームは、まだ命名前のこの種はハツェゴプテリクスよりわずかに小さいものの、頭は比較的大きく頑丈だったのではと考えている。
上記の翼竜はいずれも、アズダルコ科という、独特なプロポーションの巨体を持つグループに属している。4本の肢で巧みに歩き、地上の獲物を狩っていた。
米国、南カリフォルニア大学で翼竜を専門に研究するマイケル・ハビブ氏は、この科は基本的に「著しく大きな頭と首に翼がついているようなもの」とコメントする。北米のケツァルコアトルスなどはアズダルコ科の典型で、頭部の大きさが肩から股関節までの長さの約3.5倍もあった。
「やせてひょろ長い種がいた一方で、がっしりしたたくましい種もいました。後者はより大きな獲物を捕っていたと考えられます」とハビブ氏。「化石が十分に得られていないので、推定している部分がかなりあります。しかし、今回の新しい翼竜は後者に当てはまると考えています。くちばしがピンセットのようなアズダルコ科の種に比べると、やや大きな動物を捕食する傾向が強かったでしょう」
「飛ばなかったと自信をもって言えます」
ブレミール氏によると、今回の発見は、トランシルバニアの白亜紀末の地層から近年見つかった翼竜を全て検討し、太古の生息地について明らかにする大型プロジェクトのなかでもたらされた。
「白亜紀後期には、巨大な翼竜がまとまって現れていたようです。数種の翼竜がおそらく年代的に重なり、いずれも大型化していました」とハビブ氏は話す。「その時の何らかの条件が、彼らにぴったり合っていたのかもしれません」
地上で狩りをする大きな翼竜が群島の1つに上陸すると、彼らは一帯で最大の捕食者となった。つまり、比較的安全で、獲物にも営巣に適した場所にも困らなかった。
おそらくこれが、ドラキュラとあだ名された翼竜が驚くほど大型化した理由だろう。このサイズは、空飛ぶ爬虫類としては限界に近い。
「ドラキュラ」の論文はまだ発表されていないが、ドイツのアルトミュールタール恐竜博物館には、復元した実物大の骨格標本がすでに展示されている。それによると、地上からの高さは3.5メートル、翼開長は12メートル弱となっている。しかも、肩や翼などの骨の形からすると、この巨大な動物は飛べなかった可能性があるという。
しかしハビブ氏は、この種が生涯にわたって全く飛ばなかったことにはならないと話す。生まれてしばらくは飛べるか、それに近い行動ができるが、成長して体長も体重も増え、捕食される危険がなくなると、飛ばなくなったのかもしれない。
「『ドラキュラ』は飛ばなかったと自信をもって言えます」とブレミール氏は言う。「よく似た例が、マダガスカル島の絶滅した巨鳥エピオルニスです。トランシルバニアも、白亜紀後期には島でしたから」
英ロンドン大学クイーンメアリー校の古生物学者、デイビッド・ホーン氏も同意する。氏はルーマニアの大型翼竜は「我々が知る他の翼竜に比べて、もう少し多様で風変わりに見えます」と話す。「島というのは、変わった生き物を生み出すことがよく知られています。ハツェグからは不思議な恐竜がたくさん見つかっていますが、飛び抜けて大きな肉食動物は見当たらないため、翼竜がティラノサウルスのような地位にあったのだと思います」
(文 John Pickrell、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年5月10日付]
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