怪物・ヤマタノオロチは、酒を飲んで酔ったあげく眠り、スサノオノミコトに退治された―これは600~700年代に編纂(へんさん)された『古事記』『日本書紀』に記されている神話だ。それよりはるか昔、弥生時代には口の中で米(コメ)を噛(か)んで酒を造っていたという。その製造方法は奇抜だが、科学的に見ると理にかなっている。その後も「国家事業」として酒が製造されるなど、独自の技術によって世界に誇る「SAKE」となった。日本人はどのようにして酒を造り、進化させてきたのか。シリーズ第2回は日本酒を紹介する。
酒という言葉の由来には、諸説あります。
(1)「酒=栄之水」。この栄(サカエ)が省略されてサケになった
(2)「栄のキ」という言葉から生まれた。キは御神酒(オミキ)のキ。サカエノキが短くなってサキになり、やがて、キがケに転声してサケになった
(3)酒を飲めば邪気を避けることができる。つまり、「避ける」がサケになった
いずれにしても、邪気を避け、繁栄を願う飲み物として酒が尊ばれてきたということは間違いありません。
酒の歴史は非常に古く、その発生は、有史以前にさかのぼると考えられています。そもそも酒は果実が偶然にアルコール発酵をした結果として生まれたもので、人類が意図的に造ったものではなかったようです。
日本の酒の歴史をたどると、3世紀に書かれた『魏志倭人伝』の中に「喪主泣シ、他人就ヒテ歌舞飲酒ス」「父子男女別無シ、人性酒ヲ嗜ム」とあります。それが米を原料とする酒なのか、米以外の穀類、あるいは果実を原料として造られた酒なのかはわかっていません。
米を原料として酒が造られるようになったのは、縄文時代から弥生時代にかけて、水稲農耕が定着したあとでした。九州、近畿では加熱した穀物を口でよく噛み、唾液に含まれる酵素(ジアスターゼ)で糖化して野生の酵母によって発酵させる「口噛み」という、もっとも原始的な方法で作られていました。酒を造ることを「醸す」といいますが、その語源は「噛む」だといわれています。