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食肉に手をかけ滋味増す 職人道追い求める楠田裕彦氏 ガストロノミー最前線(6)

2018/5/22

大理石のような断面が美しい

 メツゲライ クスダ(兵庫県芦屋市)の楠田裕彦さんは日本でも数少ないシャルキュティエであり、メツガーである。前者は仏語、後者は独語で「食肉加工職人」を意味する。従来、ハム・ソーセージ職人と呼ばれてきた領域だが、彼が目指す世界はもっと広く深い。

 取材に訪れた日は、窯では豚バラの塊がブナのおが粉で燻(いぶ)されて3日目を迎えていた。さらに4日間燻し続け、アルザス式のベーコンになるという。肉塊の表面は黒々と威容を放ち、猛々(たけだけ)しい。7日間ぶっ通しで燻し上げられ暁にはどんな味になるのか?

「料理人から言われます。彼らが作るのはその場その場のおいしさ。ここで作られるのは1カ月先、あるいは1年先のおいしさ、と」

 そう、食肉加工職人である楠田さんが施すのは、調味というより変化だ。肉に味わいやテクスチャーの変化を起こさせるのが彼の役割。そのために不可欠なのが時間である。時間が経過して滋味を増すような手のかけ方をする。それが楠田さんの仕事の要諦だ。

■生活とは切り離された技術

 楠田さんは、ドイツ南部のバート・ザウルガウで500年以上続く「メツゲライ・ヌスバウマー」で3年間、その後、パリで1年ほど働いて、欧州の食肉加工技術を習得した。「ドイツの店では『日本人なのに、なぜ、これらの技術を学ぶのか。君の国の文化じゃないだろう?』と聞かれました」

 楠田さんは答えた。父親がハム職人だったこと。自分も物心ついた頃からこの道を目指してきたこと。すると、彼らは懇切丁寧に指導してくれた上、門外不出のレシピまで教えてくれたという。

触って肉質を把握する。「いい肉は押しても、沈み込まない。筋繊維がしっかりしている証拠です」。写真は天城黒豚のもも。「脂肪が厚く、赤みが濃い。日本の豚には珍しいくらい力強い肉質と味わいをもっています」

 修業先には100を超えるほどの肉加工品の種類があり、冬が間近になれば、農家に呼ばれて、豚の解体も請け負った。「農家の建物には豚を潰す際に使う滑車を設(しつら)えられていました。“冬前に豚を潰して保存食にする”とは聞いていたけれど、事実、生活に根ざした文化であることを実感しました」

<料理解説>
大理石のような断面が美しい。上/ラング・ド・コション・エ・ビスターシュ(豚肉、豚レバー、豚タン、ピスタチオのテリーヌ)、中/テリーヌ・ド・カナール・オ・フォアグラ(かも肉、豚肉、フォアグラのテリーヌ)、下左/パテ・ド・カンパーニュ(豚肉と豚レバーのテリーヌ)、下右/テリーヌ・ド・サングリエ・オ・シャテーヌ(いのしし肉、豚肉、栗のテリーヌ)

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