100年超えブドウ、カンガルーとランチ 豪州ワイン旅
世界第5位のワイン生産量を誇るオーストラリア(2016年、国際ワイン・ブドウ機構=OIV発表)は、ニューワールドワインの産地の中でも存在感を放つ。ワインステートとして有名な南オーストラリア州に17年末にオープンしたユニークなワインミュージアム、100年超えブドウからつくったワインのテイスティングなど、ほかでは経験できないワイン旅を紹介する。
ブドウ畑の中に出現、観光スポット「キューブ」
南オーストラリア州の州都アデレードから車で40分ほど走れば、マクラーレン・ヴェイルのブドウ畑が広がる。最初にブドウが植えられたのは1838年で、南オーストラリア州ワイン産業発祥の地といわれる歴史のある場所だ。現在は小規模の個性豊かなブティックワイナリーが65軒を数え、270軒を超える独立ブドウ栽培農家が集積する。
ブドウ畑が広がる風景に、突如現れるルービックキューブのような建物が「キューブ(Cube)」だ。1928年から4代続くブドウ畑とワイナリー「ダーレンベルグ(d'Arenberg)」の現当主チェスター・オズボーン氏の構想によって、17年12月にオープン。ミュージアム、ギャラリー、レストラン、テイスティングルームなどを兼ねたユニークな建物だ。
ミラーで輝く建物の中に入ると、1階はミュージアム(入場料10豪ドル)。オーストラリア中のアーティストによるグラフィックアートや、先住民族アボリジニによるアボリジナルアートなど、ミックスカルチャーとアートの海に目がくらむようだ。ワインの歴史や醸造学がテーマになっているが、そのシュールな表現に驚かされる。
レストランも、オーストラリアで初めてフード3Dプリンター(食材を使って立体的な造形ができる3Dプリンター)による料理を提供したり、テーブルに映像が映し出されるバーカウンターがあったりとその創造性に驚かされるが、料理自体の評価も高い。
「キューブ」には200万豪ドルの州資金も投入され、雇用創出や観光の目玉にもなっている。開館後の1カ月間は、毎日1000人が訪れたという。
100年超えのブドウの木が残るワイナリー
アデレードから北東に車で1時間ちょっとのバロッサ・バレ―は、「ジェイコブス・クリーク」「ペンフォールズ」など日本でもおなじみのワイナリーがある有名なワイン産地。すぐ東がエデン・バレ―、南にはアデレード・ヒルズ、さらに南西がマクラーレン・ヴェイルに連なっている。
エデン・バレ―では、1841年にドイツから移民としてやってきたという歴史ある名門ワイナリー「ヘンチキ」を訪れた。5代目当主のステファン・ヘンチキ氏と、妻でブドウ栽培家のプルーさんは、バイオダイナミック農法(哲学者・教育思想家のルドルフ・シュタイナーが提唱した有機農法)で育てたブドウを使った醸造を行っている。ここではブドウの皮のコンポストやカキの殻などで土壌を改良し、単一畑のブドウを用いた高級ワインの醸造が中心だ。
1880年代にヨーロッパでまん延したブドウの害虫フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)がオーストラリアにはいなかったことから、100年を超えるブドウの古株が今も残る。こうした貴重なブドウが植えられた畑の向かいに、美しい教会が立っている。その教会の名前を取った100%シラーズの赤ワイン「ヒル・オブ・グレース」は、ビンテージによっては10万円近くするものも。その味たるや、ベリーやチョコレートなどの深いアロマとベルベットのような滑らかさにエキゾチックな複雑さもあり、余韻が長く残る。テイスティングした一同がその場で「おいしい!」と驚嘆の声を上げた。
「ヒル・オブ・グレース」を含む4種のテイスティングコースは220豪ドル。また、近隣の提携農家によるファーマーズランチ付きのラグジュアリーなワイナリーツアー(900豪ドル)を「ザ・テイラー」という会社が催行している。このツアーではアデレードからワイナリーの往復に小型の飛行機を使い、空から広大なブドウ畑を望むことができる(悪天候時を除く)。
野生動物の楽園の島、ピクニックランチで楽しむワイン
アデレードから南へ飛行機で約30分、フェリーで45分。大自然に囲まれたカンガルー島に到着する。東京都の約2倍の大きさというこの島にはカンガルーだけではなく、ワラビー、コアラ、アシカなど様々な野生動物が生息している。島の産業は観光が主だが、羊毛やチーズ、肉などを生産する羊牧場、養蜂場のほかにワイナリーもなんと30軒ほどある。
そのうちの一軒、ショールズ湾に臨む「ベイ・オブ・ショールズ」は、外科医だったジョン・ウィロピー氏が90年代に開いたワイナリー。ソービニヨン・ブラン、リースリング、シャルドネ、シラーズ、ピノ・ノワールなど12種類ものブドウを栽培してワインをつくっている。
ペリカンの絵が描かれたかわいいラベルのワインは、グラスワインがどれも7~10豪ドル。試飲は5豪ドルで、ワインを買えばただになる。アイランド・フィズというスパークリングワインは、ほのかに甘みがあるが爽やかでとても飲みやすい。
ワイナリーでお気に入りのワイン、ファームでチーズやサラミなどを買って野外でランチを楽しむのもカンガルー島らしいスタイル。「カンガルー・アイランド・オデッセイ」という会社のツアーでは、ドライバーを兼ねたガイドが、テーブルクロスを敷いてきちんとセッティングもしてくれた。
すぐそばのユーカリの森ではコアラが木の上にのんびり座り、地面ではハリモグラが顔を隠している。野生の動物たちに囲まれてワインを楽しむのもこの島ならではだ。
南オーストラリア州は、たくさんあるワイナリー巡りの楽しみはもちろんのこと、ワインの楽しみ方もバリエーションに富んでいる。
[取材協力 オーストラリア政府観光局、南オーストラリア州政府観光局]
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国・ポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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