ハンター どうしてそのミドルマネジャーは変わりたくないのか、気になりますね。変わることを恐れているのでしょうか? その仕事のプロセスの中には、どのようなチャンスがあるか、考えてみたらどうでしょう? 私にしてみれば、働き方改革とは、仕事のプロセスを再考、変革していく絶好の機会に他なりません。今よりも、より簡単で、早く、無駄のない働き方はないものでしょうか? 

そしてもう一つ大事なのは、どうして相手(あるいはあなた自身)が変わりたくないのかを考えることも必要です。そのためには、自分にとって、そして相手にとって根本的に大事にしているものは何か、を知ることです。例えば、島根県の海士町で町おこしをしている「巡りの環」代表の阿部裕志さんという人がいます。彼は、海士町にもっと若い人がたくさん来て欲しいと考えました。そのためには、もともとの住民と移住してくる人たちの関係性を良くしていかなくてはならない。そこで、まずは島の人たちを集め、彼らにとって何が最も大事なことなのかを聞きました。すると、(新しい人たちばかりになったら)島にある神社やお寺をいったい誰が管理するのか、という答えが返ってきた。これはとても面白い答えです。

白河 つまり、そこが一番変えたくない部分だった。

ハンター そう、そこで「新しくやってくる人たちも、神社やお寺をちゃんと管理しますから」と彼は約束した。すると、島の人たちも安心して緊張が解け、いい関係が築けるようになった。ですから、変えたくない感情の根っこにある問題を明らかにすることは大事です。建築にたとえるなら「本柱」のようなもの。心理的安全の基礎となるものです。

白河 なるほど、自分と相手、双方の「本柱」を理解することが、場の安全性を高めることにもつながっていくわけですね。安心すれば、みな「変わる」方向に動き出すかもしれない。

話さなければ、何も始まらない

ハンター 変化を好む人もいれば、好まない人もいます。アメリカでも日本でも、おそらくはその中間にいる人が一番多いでしょう。自分はどの立ち位置にいるのか、まずはそれを知ることです。そうすれば、話す土台もできます。コミュニケーションしないと、何も始まりませんから。

白河 女性は否が応でも、男性よりもたくさんのチェンジを経験すると思います。出産できるのは女性だけですし、子育てをすべて母親がやらないといけないと思っている女性も多い。それによって、仕事や働き方も変えないといけなくなる。ある女性は、自分はそのたびに変化を受け入れて自分自身をマネージしてきた。でも、パートナーは全然変わらない。たぶん、彼が変わるのは定年の時だけだろう、とこぼしていました。

ハンター なぜその夫婦は、変化することを成長と学びの機会と捉えないかが知りたいですね。人生において、私たちには二つの選択肢があります。一つは成長し、学ぶこと。もう一つは停滞して、枯れていくこと。男性のジェンダーロール(性役割)を変えない国ほど出生率は低いんです。イタリア、日本、韓国。

女性が子育ての責任をすべて自分で負わなくてはいけないと思うのは、間違いです。まずは、それを考え直しましょう。大事なのは「助けて」と声をあげること。

男性の場合は、女性に比べて感情と向き合うのが苦手です。どうやって父親になったらいいのか、がわからない。もっと言えば、父親になるのが怖い。自分の父親もずっと働いていたのだから、当然です。ですからまず、どういう親になりたいのか、意識的になることが必要でしょう。

そして、お互いに言えるのは、パートナーともっと会話をした方がいい。息子ができた時、私たち夫婦も、子育てに関してや、夫婦で仲良くやっていく方法について話し合いました。サポートとして家事を助けてくれる人を呼ぼうか、定期的にデートナイト(夫婦だけで夜にデートに出かけること)をしようか、などです。日本ではベビーシッターに子育てを助けてもらう文化は定着していませんが、日本人はもっとそれを考慮に入れてもいいかもしれない。

このように、私はいつも、個人的にも家族としても、「今、何が必要なのか」を妻と話しています。日本に来ると、多くのカップルがそういう話をしていないことに驚きます。話さないでいったい、どうやって相手や自分が求めていることにお互いに気づけるのでしょう? 職場でも家庭でも、オープンかつ正直に話すことから始めないと、何も始まらないんじゃないでしょうか。意義のあるナレッジワーカーの生産性においても、仕事場だけではなくて、本質的には、本人の全人生について注目しなければいけないのです。

白河:そのためにも、自分や相手と向き合い、感情を、自己をマネジメントするスキルが必要ということですね。個人の人格的なものではなく、身につけることができる「スキル」であると言われると、多くの人が安心すると思います。ありがとうございました。

取材を終えて

あとがき: ジェレミー・ハンターさんのプログラムを、4日間受けるチャンスに恵まれました。セルフマネジメント、レジリエンス、チェンジ、トランジション……言葉は知っていても、断片的にしかわからなかったことが、系統立ててつながる瞬間が新鮮でした。多くの男性が彼のもとで『トランジション』を経験する理由がわかります。「人をマネジメントする人は自分をマネジメントできないといけない」というマネージャ層のためのセルフマネジメントの技術にはじまり、変化からトランジションへの移行などを、座学だけでなく体験で学びます。働き方改革の取材をしていると、「昭和レガシー」から抜け出せない人たちが「粘土層」として『変化』の障壁となるケースが多々あります。実際にセミナーを受けた人たちの変化を見て、変化に苦しむ人にぜひジェレミーの話を聞いてほしいと思いました。私に対する、彼からのアドバイスは「捨てることを恐れるな」でした。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 曲沼美恵)

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