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「稲盛流を次世代に」 革命児・千本氏の経営者育成

2018/4/11

マネジメントチームをつくるのもサポートした。「私が来たころ、レノバは頭のいいコンサルタント集団だった。組織としてはひ弱で、まるで砂のようだった。強い組織というのは粘土のようなもの。プロの経営陣が協力して、落とし穴がないか、隅々まで目を配らなければいけない。創業期は仲良しの組織でいいが、フェーズによって必要な人材は違う。人材の入れ替えも進めた」と話す。実際、創業メンバーで現在も取締役なのは木南社長だけ。17年夏には、ホワイトハウス出身者や元環境事務次官、元外務事務次官などを起用し、業界関係者を驚かせた。

千本氏は、かつて取締役を務めた米国のベンチャー企業での出来事を明かした。「就任後、3回目の役員会に行くと、静まりかえっている。何か様子がおかしいと思った。するとベンチャーキャピタル(VC)のトップが開口一番、創業社長に向かってこう言った。『今すぐここから出て行くか、私に蹴り出されるか、どちらか選べ』。社長は黙って部屋を出て行った」。米国のVCは資金を出すだけではない。トップクラスのVCはマネジメントチームの組成まで手掛ける。こうした現場を何度も目撃した千本氏はチームづくりの重要性を痛感しているのだ。

千本氏は「ベンチャー経営者はよく、一人で何でもやろうとして失敗する。しかし、経営は一人ではできない。私には稲盛さんという先生がいた。イー・アクセスを創業したときにはエリック・ガンというパートナーがいた。ソニーには盛田昭夫さんと井深大さんがいた。最高経営責任者(CEO)一人でできることなんて限られている」と話す。結束力の強い組織をつくる発想は、稲盛氏の経営手法「アメーバ経営」(部門別採算制度)にも通じるところがある。

■「若手を助ける」シリコンバレーの精神

千本氏はレノバの会長を務めながら、他にも10社程度のベンチャー企業で社外取締役や顧問になっている。今でも毎月のようにシリコンバレーに通う千本氏には、多くの若い経営者から相談が舞い込んでくるのだという。相談ごとの多くは「会社をどうやって大きくしたらいいか」だ。

次世代のユニコーン(企業価値が10億ドルを超す未上場企業)と期待されている「トリリウム」社に、千本氏は取締役として参画している。自動車向けのサイバーセキュリティー技術で頭角を現しており、現在はシリコンバレーに本拠地があるが、元は14年に東京・恵比寿で生まれた会社だ。迷っているときに「シリコンバレーへ行け」と背中を押したのは千本氏だった。

「残念ながら日本では大きくなれない。幼少期を過ごすにはいいが、青年期に移行するための機能は日本にはない。私がその機能の一端を担えればと思っている」(千本氏)。有望なベンチャー企業には、個人で出資したり、経営メンバーを紹介したり、さらには海外展開のパートナー探しを手伝ったりすることもある。シリコンバレーでは、先輩経営者が若手起業家を支援するのが使命と考えるような風土があり、これを受け継いで実行している。

最近ではアジアの学生を支援する「千本財団」も立ち上げた。アジアの貧困家庭の高校生を対象に日本の大学での学費や生活費、日本企業への推薦状を提供する方針だ。支援を受ける条件のひとつが「日本企業で5年間過ごしたら、必ず帰国し、母国に貢献すること」。原点となっているのは、千本氏が米フロリダ大学へ留学したときの経験だ。「サチオ、君のような男こそ、母国に貢献すべきだ」という教授の助言で、給料が当時の日本の10倍以上だった米国の大手企業への就職を断った。それが、その後の日本での起業につながったのだ。

一番大事なことは「リスクをとって行動を起こすことだ」と千本氏は断言する。起業家だろうと学生だろうと、スタート地点に立とうとする若者へのエールは惜しまない。かつて稲盛氏がそうしたように。

(安田亜紀代)

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