――6秒CMを作るには、新しいノウハウが必要になりそうです。

当然、テレビCMの作りは変わってきます。たった6秒で視聴者をつかむ必要があるわけなので、どういうストーリー展開にするかも再考する必要があります。テレビの場合は、デジタルの動画広告と違って音がキーになる。オンライン動画の多くはミュートの状態で見られていますが、テレビはほぼ確実に音声も流れていますから。例えば、どのタイミングで効果的な音を出して、全体の音の起伏をどうつくるかで、視聴者のアテンションの獲得率や、訴求商品・サービスが想起される率、好感度などにかなり影響します。

このような効果測定は、これまでネットアンケートやグループインタビューなどで「このCMを覚えていますか」といった質問をして、視聴者の意見を集めることでしかわかりませんでした。しかし、この方法ではいいかげんな回答を防ぐことは難しく、タイムラグもある。その点、当社はテレビの前にいる複数の視聴者をリアルタイムで計測し、お茶の間でリラックスした状態の本当の視聴行動を調べられる。テレビCMによっては、視聴1回目のアテンション獲得率がよくても、2回目、3回目になるとガクンと効果が薄れるものも存在します。当社なら、その「CMの賞味期限」まで把握できるので、クリエーティブのあり方や、広告展開の軌道修正が可能です。

信用情報との連携でターゲティングが深化

――TVISIONの視聴質データの活用事例として、米国では他にどのような取り組みが進んでいますか。

米国のクレジットスコア大手、Experianと当社のデータ連携で、広告主がテレビCMでより精緻なターゲティングができるようにする取り組みも進んでいます。Experianはクレジットスコアをつけるために、年収やクレジットカードの保有枚数、毎月の借入額、保有しているクルマなど、あらゆる個人情報を握っている会社。これらのデータと、当社の視聴質データを個人が特定できない形で結びつけるスキームをつくっています。

これを使うと、例えばアメリカンエクスプレスのカード所有者が見ている番組や、そのなかでも年収やカードの残高が高い人が見ている番組が特定できる。アメックスのカード所有者の切り替えを狙う他のカード会社にとっては、非常に有効なデータです。自社のカード所有者が多く見ている番組も特定できるので、それを除いて広告を打てば効率も上がります。実際に米クレジットカード大手のキャピタル・ワンと当社の取り組みでは、ターゲット視聴者のアテンションGRPが明らかに伸び、カードのスイッチング率も増えました。

Experianとのデータ連係イメージ

他にも、例えばトヨタ自動車がテレビCMを打つときに、ホンダユーザーを狙い撃ちして、さらに最近子供が生まれた家庭に限定して訴求するといったことも可能。購買データとつなげれば、この番組を見てこういう人がこれを買ったなどと消費行動をトラッキングできるようになります。現状、日本ではExperianのようなサービスはありませんが、このような環境整備ができるとテレビCMもオンライン広告の世界により近づけられるはずです。

――TVISIONのデータの取り方は、今後どう進化していきますか。

現状はモーションセンサーカメラとしてマイクロソフトの「Kinect」を使っていますが、生産終了になるため、今年中にはシステムを変える予定です。通常のウェブカメラでも同等以上の識別性能を出せるようにします。また、これまでの視聴者がテレビの前にいるかどうか、実際にテレビを見ているかどうかというデータに加え、テレビを見ながら缶コーヒーを持っている、スマートフォンを使っているなど、視聴状態をより細かく分析できるように進化させます。これにより、例えばコカ・コーラを飲んでいる人はこんな番組を見ているであったり、スマホを使ってながら見している人に効果的にアプローチする方法もつくれるかもしれない。米国は4月から、日本でも今年の後半から実験的に導入していく計画です。

(日経クロストレンド 勝俣哲生)

[日経トレンディネット 2018年3月26日付の記事を再構成]

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