仕事と人生を大きく左右 性格スキルは大人も伸ばせる
こんにちは、人事労務コンサルタントの佐佐木由美子です。最近の研究では、学力に見られるような頭のよさ(認知スキル)だけでなく、テストでは測れない「性格スキル」が人生の成功に影響することが明らかとなっています。性格スキルの要素には、一体どのようなものがあるのでしょうか。
高収入、失業もしにくい…鍵は「性格スキル」
性格スキルとは、心理学や経済学で「非認知能力」と呼ばれてきたもので、心理学の世界では5つの因子(ビッグ・ファイブ)に分解できるとされています。
近年の研究では、性格スキルが高まることで、成績や収入がアップし、また健康状態も良好で寿命が延びるなど、人生のあらゆる局面においてプラスの影響を与えることが明らかとなり、注目されています。
複雑で高度な仕事であれば、一定の認知スキル(頭のよさ)は必要と言えますが、性格スキルの給与への影響は、特に低賃金労働者の給与において影響を与えるとされており、ある研究では認知スキルと比べて2.5~4倍に及ぶことが分かっています。
また、性格スキルが高いほうが失業しにくく、失業した場合でも、性格スキルの高い者のほうが失業期間が短いことが明らかとなっています。
性格スキルを構成する5つの要素「ビッグ・ファイブ」
性格スキルを構成するビッグ・ファイブとは、基本的な個人的形質の次元を5つに集約させたものであり、具体的には
(2)真面目さ(Conscientiousness)
(3)外向性(Extraversion)
(4)協調性(Agreeableness)
(5)精神的安定性(Emotional Stability)
から成るとされています。
開放性と外向性は一見すると同じように見えるかもしれませんが、開放性は知的好奇心や美しいものへの興味といった側面があるのに対し、外向性は積極的、冒険的、社交性があることを表しています。また、真面目さとは、責任感があること、粘り強さ、勤勉さなどを表しています。
仕事の成果で見ると、これらのビッグ・ファイブの中でも「真面目さ」と関係性が強いことが分かっており、職種ごとの違いはほとんど見られないそうです。また、真面目さと並んで職業人生に強い影響を与える因子が「精神的安定性」だといいます。仕事だけに限らず、人生のあらゆる側面において圧倒的に重要となるのが「真面目さ」だとされています。
性格は生まれつきのもの、と考えてしまいがちです。しかし、「性格スキル」は大人になってからも伸ばせるものだといわれており、「真面目さ」「精神的安定性」「協調性」は10代よりも20代、30代のほうの伸びが大きいことがブレント・ロバーツ氏らの研究で明らかにされました。「協調性」に至っては、40代中盤から50代中盤において大きく伸びています。
つまり、今からでも十分に性格スキルを伸ばすことができる、ということです。これは私たちにとって大いなる希望といえるのではないでしょうか。
性格スキルをどうやって高めるか
私たちが今後性格スキルを高めるためにでき得ることは、職場で責任ある仕事をして実践を通して学ぶことです。日本ではOJT(On-the-job Training)、つまり日常の業務に就きながら行われる教育訓練が一般的でした。こうした手法で企業は人材育成を行ってきたわけですが、ビジネスのスピードが加速する現在において、なかなかそこまで手が回らない……といった声も聞かれます。
そこで新たな人材交流・育成として、最近注目されているのが副業・兼業です。責任ある仕事をこれまでと違った環境で行っていくわけですから、性格スキルが鍛えられることはいうまでもありません。副業でなくとも、ボランティアや地域に貢献する活動等でも、自分が本気でコミットして行うことであれば、成長が期待できます。
欧米では、職業実習制度(デュアル・システム)における、仕事を通じての学びと教室での学びの2本立てにより、若者の多くが職業教育訓練を受けています。日本では教育というと座学が中心で、受け身の姿勢に慣れてしまっているところがありますが、話を聞いているだけでは性格スキルを高めるという視点では十分とはいえません。
自らの考えを人前でプレゼンしたり、双方向のコミュニケーションを取ったり、人と積極的に関わったりすることなどを通して、外向性や開放性、真面目さという性格スキルが高められていくと考えられます。それは、学びの場であっても、仕事の場であっても同じです。
新年度がスタートしました。最近の生活に張りがないと感じているなら、新しいことにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。何かをやり抜いたときに、真面目さという性格スキルがアップしていることでしょう。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌等メディアで活躍。
[nikkei WOMAN Online 2018年3月28日付記事を再構成]
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