回数制限で闇カジノが栄える? 依存症対策の有効性は

カジノ解禁に伴うギャンブル依存症対策に注目が集まっています。自民、公明両党は3月27日、今国会への提出を目指す統合型リゾート(IR)実施法案に「週3回、月10回」という入場回数の制限を盛り込むことで合意しました。数千円程度の入場料も徴収する方向で検討しています。依存症対策をどう考えればよいのでしょうか。
日本はギャンブル依存症になったことがある人が海外よりも多そうです。国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)が2017年にまとめた実態調査(中間結果)によると、成人の3.6%が依存症を疑われる状態になったことがあると推計されます。オランダは1.9%、カナダが0.9%、スイスが1.1%なので日本の多さが目立ちます。調査は「負けた分を取り戻そうとギャンブルをしたことがありますか」といった16項目を質問しました。
最も身近なギャンブルといえるパチンコでは「行きやすさ」が依存症と関係するとの研究結果があります。慶応大学の後藤励准教授らは14年、自宅から1.5キロ以内にパチンコ店ができると、依存症が疑われる状態になる確率が変わるのかを調べました。結果は低所得地域では2.6%上昇。性別でみると女性は変わりませんでしたが、男性は1.9%上がりました。
与党が検討している入場制限や入場料にはカジノに行きにくくする効果があるので、後藤氏は「アクセスしにくい立地と組み合わせることでかなり有効な対策になる」とみています。
これに対し、よしの病院(東京都町田市)の河本泰信副院長は依存症患者を治療してきた経験から対策の効果を疑問視しています。ギャンブルで失ったお金を取り戻そうとする「負け追い」という行動をやめさせるのは簡単ではないためです。こうした人は「他のギャンブルではなく、同じギャンブルで取り戻そうとする」(河本氏)そうです。このため回数制限などでカジノに入れなくなると、規制が行き届かないインターネットカジノや闇カジノに向かう恐れがあるそうです。
そうなっては治療が難しくなってしまうので、むしろ、個人の賭け金のデータを記録しておいて、カジノ側が依存症の疑いのある人に声をかける仕組みが重要だといいます。
そもそも日本ではまだ「ギャンブル研究は少ない」(後藤氏)のが現状で、治療できる人材の育成も始まったばかりです。ギャンブル依存症を説明できることが医学部卒業生の「必須の能力」になるのは18年4月からです。カジノを解禁するには、ギャンブル依存症の研究や対策を急ぐ必要がありそうです。
河本泰信・よしの病院副院長「賭け方を記録し、カジノ側が注意を」
精神科医でギャンブル依存症に詳しい河本泰信・よしの病院(東京都町田市)副院長に依存症対策のあり方について聞きました。
――ギャンブル依存症にはどんな症状があるのでしょうか。

「私は医療の現場にいるので全体から見れば一部の人しか見ていないが、ギャンブル依存症になると、負けを取り戻すことがギャンブルの目的になる。今日の負けを今日取り戻すのか、1週間後に取り戻すのか、期間は人によって様々だが、負けを追うという点では一致している」
――入場回数を制限するといった対策は効果があるのでしょうか。
「ギャンブル依存症になった人には意味がない。回数制限があれば目いっぱい使ってしまうだろう。それでも取り戻せなかった人はしっかりと規制されていないネットカジノや闇カジノに行ってしまうかもしれない。回数の制限は結果的にのめり込むタイプの人にとっては関係ないし、むしろ問題を水面下に押し込んでしまう」
「のめり込む人は一定の割合で出るから、その人たちへの対策をきちんとすべきだ。カジノはこれからできるものなので、最初からカードで管理できる。コインの交換の傾向や賭け方の傾向をきちんと把握していくべきだ」
――記録を付けることには利用者から反発が出そうです。
「安全で安心して楽しんでいただくために管理させてくださいとお願いするしかない。取り戻そうとハラハラしてやっているから楽しんでいると勘違いしている人が多いが、負けを追うような賭け方をするということは楽しくない。私のところに治療にこられる人も楽しんでいると勘違いしているが、よくよく聞くと苦しんでいることが分かる。自覚のない人に(カジノ側から)サインを出せるようにしたほうが、安心してギャンブルを楽しんでいただける。そのために傾向を把握するシステムにご協力してくださいとお願いをする」
「ギャンブル依存症には(アルコールなどと異なり)身体的な依存がないので、代わりに熱中できるものを見つけやすい。早めに自覚させることが重要だ」
(久保田昌幸)
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