週末レシピ ガッツリ白いボンゴレ 塩と油の量がカギ

週末レシピ、今週はパスタ界の西の横綱「ボンゴレ・ビアンコ」を作ってみよう。今回は通常よりアサリ、ニンニク、唐辛子が多めのガッツリ骨太レシピとなっている。特に塩と油の使い方に注目してほしい。まずは基本的なレシピから。後半に盛り付けのコツと、春のアレンジを紹介する。
【材料(2人前)】
パスタ 160グラム / アサリ(砂抜きしたもの) 400グラム / オリーブオイル 大さじ4 / 白ワイン 大さじ3 / ニンニク ふたかけら / 唐辛子 2~3本 / 塩 / パセリ

【手順】
(1)お湯を沸かす。アサリのソースを作る
(2)パスタをゆでる
(3)アサリとパスタを合わせ、盛り付ける
ボンゴレは大別すると「赤いの」と「白いの」の2種類がある。「赤いの」ことボンゴレ・ロッソはトマトを使ったもので、こってり甘く濃厚なトマトソースを使ったものや、さっぱりトマトスープにつかったもの、小さなトマトを具として入れたものなどが含まれる。うま味成分たっぷりのトマトとアサリを合わせるのだもの、もちろんおいしいに決まっている。
だが、買ったばかりの白シャツに盛大にトマトソース付きアサリを落とした、あのハタチの春から、ボンゴレ・ロッソは私の人生からは退場願っている。それにアサリそのもののおいしさを味わうのなら、トマトのうま味はむしろ邪魔になる。ボンゴレは「白いの」に限るのである。
また、たとえ「白いの」であっても、スープたっぷりのタイプは、これまた退場願っている。理由も同じだ。ハタチの春、お気に入りだったあのワンピースをシミだらけにしたスープスパゲティを、私は決して許すことはできない。ビチャビチャといたずらに汁気たっぷりにするのではなく、おいしいソースがパスタにとろりと満遍なくからまっている。それが私の理想的なボンゴレ・ビアンコだ。

アサリのソースを先に作るのは、失敗を少なくするためだ。ボンゴレにはフェデリーニや、スパゲティーニなど、1.4ミリから1.6ミリの細めのパスタを使用するが、これは肉系のソースによく合う2ミリ前後の太いスパゲティと比べると、ゆで時間がとても短い。つまり、慣れていないとパスタがゆで上がったのに、まだソースができてない、などというはめになるのだ。なので、お湯を火にかけたら先にソースに取り掛かる。ソースのめどがついてからパスタをゆで始める方が、失敗がないと言える。
ただし腕に覚えがある人、逆算して作業ができる人は、並行して作業を進めて構わない。ドンピシャのタイミングで完成できたら、めちゃくちゃ気持ちいいこと請け合いだ。
ではまずパスタをゆでるお湯を火にかけよう。お湯はたっぷり3リットルは欲しいところだが、キッチンの事情で難しいこともあろう。できる範囲で、大きな鍋を用意してほしい。もしくは1人前ずつ作るという手もある。これならもう少し少ない湯量でもいける。大事なのは、ここで鍋に入れた水の量をしっかり測っておくこと。そして水の量の1パーセントの分量の塩も測っておくことだ。

パスタをゆでる際の塩は目分量で適当、という人が多いかと思われる。パスタなんてしょっちゅう作ってる、という人ほど、慣れでパパッと済ませてしまう。そして大抵の場合、その塩の量は少ないのだ。理由はちゃんと測ってみればわかる。1パーセントというのは、なかなか勇気のいる量だ。3リットルの場合は、30グラム。大さじ2杯にもなる。精製塩でも「こんなに使うの?」とドキドキする量なのに、ちょっといい塩をつい集めちゃう料理オタクさんなら「これいくらしたと思ってるんだ!?」と叫びたくなるだろう。
だがここは心を鬼にして、きっちり1パーセントを使ってほしい。これで底味がしっかり決まる。あとから合わせるソースが凡庸でも、パスタの底味がしっかりしていればなんとかなる。逆にパスタの塩分がぼやけていれば、どんなに最高のソースも間抜けな味になってしまう。塩はきちんと効かせる。これが第1のルールである。

ではお湯を沸かしている間に、ソースに取り掛かろう。ここで大事なことは、油の量である。これまた目分量で適当に入れてしまう人が多いかと思われるが、きちんと測ってほしい。これは塩同様、なかなか勇気のいる量であるため、ちょっといいオリーブオイルを集めちゃう料理オタクな人ほど「これ、いくらしたと思っているんだよ……」と泣きたくなってしまうかもしれない。
だがここが正念場である。たっぷり大さじ4のオリーブオイルをフライパンに入れてほしい。なんならもう少し増やしてもいい。これが第2のルールである。この倍くらい使うレシピもあると思えば、少しは気が楽にな...るかもしれない。

ニンニクは、包丁の腹を当てて押しつぶしておく。みじん切りにするレシピもあるが、ここでのニンニクの役割は「オイルにおいしい風味をつける」こと。弱火でじっくり温め香りを移し、決して焦がしてはならない。なので細かいみじん切りより、つぶしただけの大きいままの方がうまくいく。冷たいフライパンにオイルとともに入れてから火をつけ、両面がきつね色にこんがり焼き目がつくまで焦らずに温めよう。
唐辛子は半分にカットして、中のタネをとっておく。タネは食感が悪いし、辛味も強い。丸ごとの唐辛子がなければ輪切りでも良いが、辛味は強く出やすくなるので、辛さに弱い人は気をつけよう。ニンニクがこんがりとなったら唐辛子を入れ、10秒くらい温めたらもうOK。すぐアサリ、白ワイン、パセリを入れ、ふたをして強火にかける。

アサリの口が空いてきたらふたをとる。ここからがちょっと忙しい。やらなくても食べられるが、やった方が間違いなくおいしくなる作業「乳化」にチャレンジするからだ。乳化とは水分と油が混じり合って、トロッとした状態になること。マヨネーズやドレッシングなどでおなじみの現象だ。これをやると味がまろやかに、コクを感じる仕上がりになる。手は忙しいが、作業自体は難しいものではない。フライパンをひたすら揺すりつつ、アサリの煮汁を煮詰め、油の粒を細かくし、両者が合わさってとろんとなってくるのを待つだけだ。
乳化のキモは、油だ。ここで油が少ないと、乳化は難しい。そこで先ほど多く入れた油の量が生きてくる。場合によってはオリーブオイルをさらに足すこともある。上手に乳化できたら、おめでとう。あなたのボンゴレは大人の階段を登ったのだ。もう堂々と人に出せるレベルである。

パスタはここからゆでてもいいし、慣れてきたらアサリをフライパンに入れたと同時くらいに開始してもいい。表示時間より少なくとも30秒は早くあげたら、アサリの入ったフライパンにパスタを入れる。火は弱火。そしてソースをパスタに吸わせるイメージで、30秒ほどフライパンでよくあえる。パスタの下味と、アサリの塩気で、特に味つけは必要ないはず。皿に盛り、熱いうちに食べてもらおう。
基本的なボンゴレのレシピは、以上だ。塩は1パーセントの量を、しっかり測ること。そしてオリーブオイルも正確に測って使うこと。この2つは絶対守ってほしい。もったいないからといってケチってたら、いつまでたっても間抜けなパスタしか作れない。

盛り付けのコツは、よく言われることだが「高さを出す」ことに尽きる。平皿にぺたんと薄く広げたのでは、パスタの躍動感がない。トングでパスタをつかんだら、真ん中が高くなるようにひねりながらすっと引き上げて盛るとうまくいく。またアサリは全部が殻付きだと皿の上がガヤガヤするし、食べ手が疲れてしまうかもしれない。なので半分を殻付きのまま残しておいて、あとの半分は殻から出してしまうとより親切だ。慣れてきてお手すきの時間ができたらやってみよう。
そして乳化作業にあたふたしていると、アサリに火が通り過ぎて身が縮んでしまいがちである。アサリをもっとおいしく食べるのなら、口を開いたアサリから順番に皿などに出し、パスタと同時にフライパンに戻すといい。開いてすぐのときに火から上げてしまえば、ぷりぷりした状態が保てるし、何より見栄えがする。乳化に慣れてきたら、ぜひチャレンジしてほしいものだ。
アサリの旬は今。1年中売られてはいるが「うちは春しかボンゴレを出さない」という店もあるほど、春のアサリは格別である。アサリだけでも十分においしいが、菜の花や春キャベツなど春の食材を一緒に合わせるのもまたオツなものである。パスタがゆで上がる1分前に鍋に放り込んで、一緒にゆでるだけ。アサリのうま味がしみしみの菜の花なんて、それだけでワインが1本空いてしまいそうだ。
(食ライター じろまるいずみ)
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