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旅・風景

未来での蘇生を願う ロシアで冷凍保存され眠る人々

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/4/4

ナショナルジオグラフィック日本版

モスクワの宇宙飛行士記念博物館で行われたサイバースーツ開発に向けた資金集めのイベントに出席した、トランスヒューマニストで神経生物学者のオルガ・レヴィツカヤ氏。彼女が身に着けているのは、怪我をした患者のリハビリを助けるスーツの試作品(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

 ロシア、モスクワから北へ2時間ほどの距離にある小さな白い倉庫には、再び生を得る日を待ちわびる56人の遺体が収められている。遺体は完全に血液を抜かれ、マイナス196℃の液体窒素に逆さまに漬けられた状態で、100年先まで保存される。

 遺体の多くは、自然死を迎えた高齢者のものだ。ほとんどが生前にこうした処置をしてほしいと希望していた人々だが、一部には本人の死後、家族が愛する人のために3万6000ドル(約385万円)を支払って、遺体を冷凍保存したケースもある。保存期間は基本的に100年で、22世紀の科学の進歩状況によっては延長される可能性もある。

 科学の進歩を待つというのが、人体の冷凍保存、ひいては「トランスヒューマニズム(超人間主義)」と呼ばれる世界観の背後にある論理だ。がんや心臓病で亡くなったとしても、そうした病が存在しなくなった未来であれば、人は蘇生できるかもしれない。

 「彼らは技術の進歩を信じています」。人体の冷凍保存を手がけるロシアの「クリオルス社」の施設を訪ね、トランスヒューマニストたちを取材したイタリア人写真家のジュゼッペ・ヌッチ氏はそう語る。「彼らは、いつか誰かが自分を目覚めさせてくれることを望んでいるのです」

モスクワ郊外にある液体窒素とドライアイスの工場で、霧に包まれて液体窒素タンクへの補充作業をする人々。ここはクリオルス社の元従業員が立ち上げた会社で、現在は同社に液体窒素を供給している(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

 現在ある病気は将来的に克服されるはずという考え方は、この世界は常に少しずつ進歩しているということに人々が気づいた古代から存在する。20世紀初頭、ロシアでは哲学者のニコライ・フョードロヴィチ・フョードロフらの提唱により、十分な時間があれば、人間は悪や死を克服できるという考えに根ざしたロシア宇宙主義運動が起こった。人の一生が短すぎるならば、それを延ばせばよい、死んだ後も腐敗を止めて、世界の技術が追いつくのを待てばよいと彼らは考えた。

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