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キャリアコラム

東大卒の「女芸人」 就活生憧れの企業で学んだ挫折

2018/3/13

年が明けて09年になり、チャンスがきた。自動車分野のクライアントプロジェクトのチームに割り当てられた。しかし、チームは2人、しかも上司はドイツ法人からこのプロジェクトのために派遣された外国人。「すべて英語でプロジェクトは進んだ。自動車のことは全くの素人。プロジェクトをうまく進められず、資料やデータが頭に入らない状態になった」という。ドイツ人上司は「彼女は使えないな」とあきれ顔に。

「とにかく売れないとだめですよね」と話す石井さん

ついには“千本ノック”がスタートした。次々細かな指示を与えられ、「2分おきにクライアントにメールを返しなさい」と命じられた。

■電通の女性社員のような状況に

週末には過呼吸になり、ストレス太りが襲う。産業医の診断を受けようと思ったが、「2分おきだから、産業医にも連絡している暇がない」とうつのような状況に。「逃げたい。どうしたらいいのか分からない。もう死んだ方が楽なんじゃないかと思い込むようになりました」と話す。

白百合・東大時代は努力すれば必ず報われた。しかし、マッキンゼーでは勝ちパターンを描けなかった。同期と雑談する余裕もなく、頼ったり、相談できる先輩や上司をつくる前に、プロとしての役割を求められた。ミスをするたびにひどく落ち込み、評価される成果をあげなければ、というプレッシャーに必要以上におびえていた。

09年春、入社1年目で同期の1人が辞表を出した。「正直ホッとしました。『辞める』という選択肢があることにようやく気づいた」。そして入社して1年4カ月、夏を迎える前に退職を決断した。最低でも3年は頑張ろうと意気込んで入社したマッキンゼーを1年あまりで辞めることは、キャリアに傷がつくと考えていた。ゆがんだプライドに支配されていた。しかし、自分が主役の人生を生きられていないことにハッとした。「同期もいずれ辞めていくし」と最後は割り切った。もともと外資系コンサルは2~3年で卒業する社員が少なくない。

「死んだ方が楽」と感じるまで追い詰められて初めて「どうせいつか死ぬんだったらその前に本当にやってみたかったことをやろう」という境地に至った。本当に「黒百合」のような風景になった。

そのとき、脳裏に浮かんだのが白百合時代の学園祭。舞台で司会したり、踊ったり。自分がしゃべると会場が笑いに包まれたこともあった、快感だった。マッキンゼーのサマーパーティーや忘年会でもなぜか自分が司会進行をつとめた。外国人が交じる沈着冷静なエリート集団から笑みが漏れていた。

■好きな人生を生きようと決意

「芸人になる。自分の人生なんだから好きなように生きればいいじゃん」と石井さんの発想は一気に転換、ワタナベエンターテインメントの門をたたいた。白百合、東大、マッキンゼーという華やかなキャリアを断ち切った。

一昨年、米大統領選に出馬したヒラリー・クリントン氏のモノマネをしたりして、テレビや舞台で笑いをとった。しかし、「売れている」とはほど遠い。むしろ後輩に次々抜かれた。

「バブリー芸人」として人気者になった平野ノラさん、17年にブレークしたブルゾンちえみさんも同じ事務所だ。クイズ番組などでは東大など一流大学出身のお笑いタレントが重用されるが、芸能界は基本、学歴無関係の世界だ。「ノラちゃんとは大親友なんですが、彼女は売れたなあ。やっぱり芸人は売れないとダメなんですよ」と笑う。

「テレビで披露できるレベルのネタができるようになるまで、たくさん迷走してきました。起業するなり何かビジネスとかやればいいのにと言われることもありますが、今は自分はエンターテインメントのプレーヤーでいたいんです。『自分はどうしたい?』がはっきりと問われるマッキンゼーに入って挫折して、自分の好きな明確な道が分かったんです。だからすごくマッキンゼーには感謝していますね」という。明朗快活な石井さん。心身とも今は快調な日々を送っている。

(代慶達也)

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