レシピ動画の後発クラシル 大量投入で逆転、世界一に

日経トレンディ

インスタグラムに似た操作性。サムネイルを流し見し、これはというレシピは「お気に入り」に登録

アプリを始めたもう一つの理由は、圧倒的な本数をそろえ、高い検索性を備えれば、レシピ動画は「見て楽しむもの」だけではなく実用コンテンツになると考えたこと。クラシルを「クックパッドの動画版」として成立させられるのではないか。スマホでの通信が高速化していくなか、ユーザーがよりリッチなコンテンツにシフトする流れは目に見えていた。

当時、レシピ動画の主流は間違いなく分散型で、先行する国内外のサービスは、いずれもSNSで話題になるような奇抜で派手なレシピを、1日に3つか4つ投稿することに終始していた。アルゴリズム的に、投稿動画数が多過ぎるとユーザーに届きにくくなるため、彼らはそれ以上発信できなかったのだ。つまり、分散型では圧倒的本数は望めない。また、「バズる(ネット上で広まる)」ことが優先の派手なレシピは実用性には乏しくなりがちだ。だから僕らは、「時代に逆行している」という批判を尻目にアプリにかじを切り、実用的なレシピ動画を1日に50本体制で作り続けた。

社内のキッチン兼スタジオ。報酬は撮影本数に比例し、「バズり具合」は考慮しない。誰でもそこそこの撮影ができるようマニュアル化。「競合とはコンテンツの質ではなくシステムの違いで勝負している」(柴田氏)(写真:吉成大輔)

レシピ数、約1万3000は少なく見えるかもしれないが、これはすべてプロのレシピだ。クックパッドが擁する280万レシピのうち、閲覧回数が多いのが上位数万程度とされていることからすれば、実用に堪えるものにはなっているのではないか。今でも常にユーザーの検索動向を追い、ニーズに応えるレシピが出ているかを細かくチェックして、満足度の向上に努めている。季節の食材やスーパーで安売りされているものが検索ワードの上位に来ることから見ても、毎日の食事作りに使っていただけているのだと思う。

プロやセミプロによる大量生産

大量の動画を作るうえで欠かせないのが、レシピの考案から調理、動画撮影までを担当する「クラシルシェフ」の存在だ。管理栄養士、調理師などの有資格者から料理好きな主婦までが在籍し、1日50本の動画を作成している。消費者が投稿するのではなく、料理のプロ・セミプロが作る動画であることで、レシピと動画の質が担保される。

そのうえで、そのときどきの安い食材を使うといった、実用性重視のレシピを多くそろえる。当社からクラシルシェフたちに、こんな食材を使ってほしいというリクエストを機動的に出す。これらの取り組みが他サービスと比べた利用のしやすさや安心感につながっていると思う。

スポンサーのビールに合うレシピを紹介

収益源としては、多くは食品メーカーのタイアップ広告だ。レシピ動画のメリットとして、スポンサー商品を食材として使ったり、完成した盛り付けのシーンで映すなど、視聴者にネガティブな印象を与えない自然なPR動画を作りやすい。実際、大手食品メーカーの多くが活用している。

今では競合他社もこぞってアプリを始めているが、僕らはこれまで動画を一気に増やし、検索のアルゴリズムを磨き、大量のダウンロード数を獲得してきた。積み重ねから得た地位は、おいそれと崩せないと自負している。

(ライター 平林理恵)

[日経トレンディ2018年4月号の記事を再構成]

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