ホンダの新型クロスカブ 原付に新風、女性にアピール
世界で1億台以上売れているホンダのスーパーカブ。それをベースとしてクロスカントリー風に仕上げたクロスカブに新モデルが登場した。原付(げんつき)免許で乗れる50ccのモデルも追加された。増えてきた女性や若者など、新しいユーザーの呼び込みを狙う。
マーケットの変化とターゲットユーザー
これまで原付二種110ccのみのラインアップだったクロスカブだが、今回原付一種50ccもラインアップされた。デザインは似ているがホイールは110ccが17インチに対して50ccは14インチと小さくなっている。ハンドルも小型になり、ウインカースイッチが右側に配置されているなど意外に変更点は多い。
110ccは小型二輪免許が必要なことから、これまでのクロスカブユーザーやオートバイユーザーの買い替え・買い増し需要が中心になる。50ccは普通免許や原付免許で乗れるので新規ユーザーが買いやすいとホンダは想定している。
先代モデルで1名乗車だったクロスカブ110だが、新型110ccはタンデムステップがついたことで2名乗車が可能になった。リアシートはなく、冷たく固いキャリアの上にお尻を載せなければならないので快適とはいえないが、それでも2名でちょっと移動できるのは便利だ。
じわりと増えてきた女性ユーザー、若者ユーザー
スーパーカブやクロスカブは若者にも人気がある。カスタマイズして乗ることで、自分だけのカブが作れるのが理由の一つだ。わざわざ古いカブを直して乗る人もいる。この傾向は女性でも同様だ。
単なる通勤、通学であればスクーターで十分。スクーターならメットイン機能があり、荷物も入れられ便利だ。しかし乗って楽しいのはカブ、ということでわざわざカブを選ぶという。
都内でもオシャレに乗りこなす女性が増えている。クロスカブは原宿や青山にも似合う。派手なカスタマイズ・改造をしなくとも、ステッカーをワンポイントで貼るだけでも随分と印象が変わり、自分のバイクという実感が増す。
ホンダとしては街乗りから郊外まで、ちょっと冒険してみたい、行動範囲を広げたい人にオススメしたいそうだ。
現行モデルユーザーに聞いた新型クロスカブの印象
女性ライダーの和田亜希子さんは4年前一念発起して中型二輪免許を取得、クロスカブ110に一目ぼれして購入したクロスカブフリークだ。日本の沿岸をクロスカブでツーリングしており、これまで東日本や北海道、九州などを走破した。現在走行距離は約2万キロ。2018年中に日本沿岸一周を達成するという。
自分のクロスカブに愛着があり、新型に浮気をしないと言っていたが、実物をみたらカッコいいと、女心が揺らいだそうだ。
先代にあったレッグシールドが新型では外されており、それがデザイン的にかっこよくみえるという。また曲面がキレイなサイドカバーは書類入れにもなっており実用性もアップしている。
二輪講習の講師を務める小原應信さんは二輪のエキスパート、大型バイクも難なく乗りこなす。小原さんはクロスカブの走りを高く評価、17インチのスポークホイールによるコーナリングの優しさが特にお気に入りだという。新型には防寒や泥はねから守ってくれるレッグシールドがないのが唯一の不満点だったが、後から取り付けられと聞いて、大いに迷っているという。
クロスカブ50を試乗しての印象
今回50ccモデルに試乗する機会を得た。50ccモデルはホイールが14インチと小型であり、シート高が低く、足をべったりと地面につけられる。また車高が低いことから低重心となり、軽く感じられて、自転車感覚で乗れる。これなら女性でも安心して取り回しができるだろう。
エンジンパワーは3.7馬力と数値的にはそれほどでもないが、実際に乗ってみると低回転から実に粘り強く、トコトコと走ることに驚く。ギアは4速、1速は発進専用の低いギアで、すぐにシフトアップして速度をのせていきたい。
カブにはクラッチレバーがなく、ギアチェンジは左足のレバーを踏みつけるだけでよいが、ちょっとしたコツがいる。それはチェンジレバーの放し方だ。乱暴に放すとギクシャクしてしまう。シフトアップ時にアクセルをオンのままだとガクンと揺れてしまうのでアクセルを戻しておくのも肝要だ。
シフトダウンは同様にチェンジレバーの後ろ側を踏みつけるだけだが、アクセルがそのままだとエンジンの回転数が同じなので、ガクンと速度が落ちてしまう。踏み込んだあとにアクセルをあおって回転数を高くし、それからチェンジレバーを放すとスムーズにシフトダウンできる。
この作業を面倒と思うか、楽しみと思うかは人それぞれだ。しかし女性を含む多くのカブユーザーがスクーターと比べて操る感覚があり、楽しいと言っているのだからここがカブの魅力のひとつになっているのは間違いないだろう。毎日の通勤通学も楽しく、ちょっとした近場を走るだけでも冒険気分が味わえるのが、このクロスカブの良いところだ。
原付バイクを取り巻く厳しい環境
ただ、クロスカブ50を選ぶならば原付を取り巻く交通環境の問題は知っておいた方がいい。
原付は最高速度が時速30kmに制限されている。幹線道路を時速30kmで走ると円滑な交通を乱してしまうが、法律上やむを得ないし、ちょっとでも速度を上げるとパトカーや白バイに摘発されてしまうのが現状だ。
駐車環境も整っていない。都内で二輪駐車場は十分になく、一方で取締はとても厳しい。ちょっと歩道の隅っこにとめていただけでも、すぐに駐車違反をとられてしまう。
ヨーロッパの街中や台湾では歩道や車道脇のスペースを活用し二輪駐車場を確保、市民の生活の足として二輪は活用されている。四輪よりもスペース効率がよく、エコな二輪を活用することで渋滞緩和や排出ガス抑制を行っているのだ。
メーカーは共同で国土交通省や警察に対して駐車場確保の要望や、免許制度の緩和を要請しているが、一向に進んでいないのが実情である。
日本には世界に名だたるオートバイメーカーが4社もあるが、販売の中心は海外で、日本はもはやニッチ市場である。小型バイクに目を向けると海外では110~125ccが主流で、50ccバイクは日本独自規格のガラパゴス市場だ。ヤマハ発動機は既に50ccバイクの新規開発から撤退、ホンダと共同開発するとしている。メーカーはそれほど切羽詰まっているのだ。
新型の50ccバイクとして登場したクロスカブ50はとても贅沢なモデルといっても過言ではない。
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クロスカブの出足は売れ行き好調、特に110ccはバックオーダーを抱えるほどだという。春になるとバイクを楽しむのにいい季節になり、さらに売れるのは間違いないだろう。クロスカブなら気軽に、そしてちょっとした移動さえも冒険にかえ、毎日をワクワクさせてくれるはずだ。
(ライター 野間恒毅)
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