自国で日本食ファンになった人は、絶対に日本で本場の味を経験したいですよね。私たちがイタリアで本場のピザやパスタを食べるのを楽しみにするのと同じように。逆に、日本でおいしい食に出合った観光客たちが、自国に帰って日本食レストランに足を運ぶケースも増えていることでしょう。

日本食リピーターを引き付ける「旬」の存在

和食がユネスコ無形文化遺産に登録された際、挙げられた特徴の一つに「自然の美しさや季節の移ろいの表現」がありました。南北に長い日本の各地で味わう土地の名産と、旬の食材を使った季節感あふれる料理。そこに魅了される外国人は多いと聞きます。

夫のシャウエッカーもその一人。早春のこの時期、彼が大好きなものが野や山に姿を現します。それは「フキノトウ」。日本に来て最初の春、秋田の乳頭温泉郷を訪れたとき、まだ雪が残る地面のあちこちに、春の日差しのようにやわらかい浅緑色のフキノトウがたくさん生えているのを見て驚いたらしく「あれは何?」と聞かれました。

食べられる山菜だと教えてあげたところ、その日の旅館の夕食にフキノトウの天ぷらが出てきたのです。大喜びで味わう彼。そのほろ苦い味や独特の香りがいっぺんで好きになったようです。「『春は苦味』という言葉を、日本に来て初めて知りました。北国では雪が解けるとすぐ出てくる、その春を告げる雰囲気も好きですね」(シャウエッカー)。以来、春先に地方の取材があると無意識にフキノトウを探してしまうようです。旬ではない季節に行ったときはフキ味噌をお土産に買ってくるほど、あの苦味が気に入っています。

シャウエッカーが実際に見た乳頭温泉郷のフキノトウ。あたり一面に顔を出し春の訪れを告げていました(写真:japan-guide.com)

「スイスやカナダに住んでいたころは、四季はありましたが旬はあまり意識しませんでした。日本の旅館は食事に旬のもの、地のものを出してくれるのでうれしいですね。自分がいつ、どこへ行ったかを食べ物とともに記憶できます」。訪日観光のリピーターにとっても同じ。季節ごとに違うものが食べられるという点は、日本の食の評価を高くしている一つのポイントだと思います。

欧米では意外に珍しい食のスタイル「居酒屋」

最近の傾向では、食のメニューだけでなく、シチュエーション、食のスタイルにもこだわる訪日客が増えているように感じます。例えば、渓流の上に造られた桟敷で食事をする夏の川床(かわどこ)料理などに関心のある外国人は多いようです。冒頭の写真「福岡の屋台」が外国人観光客に大人気なのもその表れですね。

もっと多いのが「日本の居酒屋が大好き」という外国人。シャウエッカーによると、いろいろな食べ物を頼んでみんなでシェアするという居酒屋のシステムは、欧米の飲食店では意外に珍しいとのことです。確かに、居酒屋ならたくさんの種類の料理が食べられますし、刺し身、天ぷら、焼き鳥、豆腐料理など外国人が好きそうなメニューはだいたいあります。人気を反映して、今、海外でもIzakayaスタイルのお店が増えています。

カウンター、手書きのメニュー、板前さんとの距離、おいしい料理とお酒、そして楽しそうな人々。外国の人にはこの居酒屋の雰囲気すべてが魅力なのだそうです(写真:japan-guide.com)

外国人が居酒屋を好むもう一つの理由は、おとなしい日本人がまるで別人のように陽気になっているのが見られるから。スタッフのサムは以前、「ふつうジャパン」と「居酒屋ジャパン」という2つの日本人像があると話していましたが(「日本のビールが愛される理由 外国人記者に直撃」の記事参照)、そういう日本人の姿を見るととても親近感がわくようです。