高速で泳ぐサメのウロコ 飛行機の翼にも応用可能
サメの皮膚を覆うウロコの構造が、飛行機やドローン、風力タービン、自動車などの翼(エアロパーツ)にも応用できる可能性が出てきた。ウロコの機能を研究していたチームが、その構造を飛行機の翼のモデルに3D印刷して実験したところ、ウロコは抗力を小さくするだけでなく、揚力を大きくしていることが明らかになったのだ。
サメは、4億年以上にわたる進化を経て、水中を高速で泳げるように適応してきた。なかでもアオザメは最も速く、短距離なら最高時速100kmにもなる。2位はネズミザメで時速80km、有名なホホジロザメは3位だ。
サメの皮膚は楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる小さな歯のようなウロコに覆われている。1980年代にこの構造が見つかって以来、空気力学的な研究が行われてきたが、水の抵抗(抗力)を減らす効果について研究者の意見は分かれていた。そこで今回、米ハーバード大学の進化生物学者と工学者のチームが詳細な研究を行った。
学術誌『Journal of the Royal Society Interface』2018年2月6日号に発表された論文によると、サメの楯鱗は、抗力を小さくして前進を容易にしているだけでなく、揚力を高めていることが明らかになった。今回得られた知見は、飛行機、ドローン、風力タービンにも役立つという。
サメ肌の効果
航空機には、機体を上昇させる力と、進行方向に姿勢を保たせる力とが必要だ。論文の共著者であるメヘディ・サーダト氏の説明によると、サメはもともと水に浮くようにできているため、揚力は上向きではなく主に横向きにはたらくという。「アオザメのウロコは、揚力を大きくし、抗力を小さくすることで、燃費を良くすることができるのです」と、論文の筆頭著者である博士課程学生のオーガスト・ドメル氏は話す。
アオザメのウロコは、三つ又のほこのような形をしている。研究チームはウロコのマイクロCTスキャンを行い、飛行機の翼のモデル表面に3D印刷した。
研究チームは、この翼を水流の中に入れて、ウロコの大きさや、並べ方や、並べる場所を変えて、20種類の配置を試した。その結果、ウロコは抗力を小さくするだけでなく、揚力を大きくしていることが明らかになった。ウロコは、目立たないが高性能のボルテックス・ジェネレーター(車や飛行機の表面にある突起で、渦を作ることで運動を安定させるためのもの)として、高速かつ滑らかな泳ぎを可能にしていた。
この実験の結果は、より大きな翼にも当てはまる。「今回の研究は、ウロコのデザインを利用して翼の空気力学的性能を大幅に向上させられることを示しています」と、ドメル氏は言う。
飛行機、ドローン、風力タービン
研究チームの当初の目的は、ウロコがサメの泳ぎの速さにどのような影響を及ぼしているかを調べることにあった。しかし、この情報は、ほかの空気力学的装置にも応用することができる。ウロコのような構造は、飛行機、ドローン、風力タービン、自動車などの翼(エアロパーツ)にも用いることができる。
ハーバード大学の博士研究員であるサーダト氏は、「私たちは、ウロコの機能を解明しようとしていました。けれども途中で、この構造を空気力学装置に応用できることに気がついたのです」と言う。この技術の今後の展望を明らかにするには、さらなる研究とテストが必要だ。「もっと良いものを作るには、ウロコの形状や配置を最適化する必要があります」
自然からヒントを得る
アオザメの特徴は、泳ぎが速いことだけではない。広い海によく適応した、流線形の体をもつ。体つきはオスとメスで大きく異なり、大きいものは体長1.8m以上、体重450kg以上になり、1カ月で2000km以上泳いだという記録もある。エラが大きく、優れた視力をもち、歯は牙状で、その縁はギザギザになっていない。
サーダト氏は、サメはさまざまな分野の研究のヒントになると言う。今回の研究にも参加しているハーバード大学のジョージ・ローダー氏は、3D印刷により人工サメ革を開発している。「自然のデザインは人間よりはるかに先を行っているのです」とドメル氏は言う。
(文 ELAINA ZACHOS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年2月13日付]
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