美の追究、女優も魅了 「審美眼」が広げた交友の輪サンモトヤマ創業者「長さん」の教え(下)

2018/2/20

「何か新しいものを見つけると、見せてくれた」
「京味」主人、西健一郎さん

「一昨年、茂登山さんのご自宅で2人で撮った写真を携帯の待ち受けにしています。開くたびに早くよくなってくださいと願っていました」と語る京味の西健一郎さん

ある時、西さんの目の前に広げられたのは、ペイズリー柄の美しい布。イタリアのブランド「エトロ」だった。1985年、社員が持ち帰ったサンプルを見て、販売を即決したというエトロは、茂登山さんのアイデアで様々な革小物を作り、世界ブランドへと羽ばたいていった。

「布の手触りも柄も、何ともすばらしい。やがて財布ができたと言って、私にくださった。今でも大切にしています」。一流のものを作る人間は、一流のものを身につけなさい。そんな教えが、数々の贈り物に込められていたように思える。

■顧客を毎日紹介

およそ50年間の付き合い。西さんが京都から東京に移り、京味を開いた時からだ。「人を2人雇っていましたが、暇でね」。それを見かねてか、京都時代の顧客が「京味をよろしく頼む」と茂登山さんに声をかけてくれたのが出合いのきっかけだった。

それから毎日、茂登山さんはサンモトヤマの顧客を京味に送り込んだ。「時々電話で『きょうは大丈夫か?』と気遣っていただき、半年続いた。そのおかげで、ようやく店は軌道に乗りました」。京味の名声が高まり、お客でいっぱいになればなるほど、西さんはお客との信頼関係を大切にし、1店だけの営業を守り続けた。それを茂登山さんはこうほめた。「店は1軒がいい。出すときは楽しみがあるけど、閉めるときの方が勇気がいる」

銀座本店は政財界、文化人が集うサロンのようだった。茂登山長市郎さん(左)は顧客の1人、作家の今東光さん(右)の「人間だけが美がわかり、美を創り出し、美を追いかける。美しいものを扱っていれば、美しいもののわかる人々が集まってくる」という言葉を大切にした

西さんは長年、茂登山さんの自宅に正月料理を届け続けた。「そのたびに、カナダの極寒の地に行った時のことなど旅行話を聞くのが楽しかった」

■素材を吟味する「目利き」として相通じる

茂登山さんは明石の鯛(たい)が大好物だった。「おまえさんのところの明石の鯛を食べたら、ほかのところでは食べられないな」。茂登山さんが「どうだ」とばかりに、西さんに優れた布や皮革製品を見せたのは、ファッションと食、素材を吟味する目利きとして相通じるものを感じていたからかもしれない。

京味は18年11月に50周年を迎える。「ホテルで祝うことなどしません。その時期は、本当にお世話になった人のために料理を作ろうと思っています」。人のつながり、信頼関係を何よりも大切にしていた茂登山さんの姿勢に、大いに影響を受けた。茂登山さんにその考えを伝えると、「いいことをやるなあ。11月が待ち遠しいなあ」と話していたという。

(編集委員 松本和佳)

前回掲載「三越伊勢丹の前社長が学んだ『元祖セレクトショップ』」もあわせてお読みください。

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