美の追究、女優も魅了 「審美眼」が広げた交友の輪サンモトヤマ創業者「長さん」の教え(下)

2018/2/20
茂登山さんが巨費を投じてレプリカを作成・寄贈した伊フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂にあるサン・ジョヴァンニ洗礼堂の「天国への扉」
「天国への扉」の裏側には茂登山さんのサインがある

数億円を投じてでき上がった天国への扉。90年の除幕式での茂登山さんの姿が忘れられない。「鐘が鳴り響く中でひざまずき、大司教から祝福を受ける茂登山さんの美しい所作が忘れられません。そして、昔、オリジナルの扉が完成した時、街の人々が覚えた感動をいま、私たちも味わっているんだと実感しました。それが復興という事業のすばらしさなんだと」。多くの観光客が訪れる洗礼堂の天国への扉の裏にはMOTOYAMAのサインが刻まれている。だが「そうしたことを声高に唱えず、常に自分からは前に出ない人でした」

■美術館のような社長室

この時から2人の交流が始まった。真野さんにとって何より楽しかったのは、社長室を訪ねること。「美術館に置かれるようなものがたくさんあったの。美しいものが好きな茂登山さんは学芸員以上の知識を持つ、美術愛好家でした」。社長室ではイタリアンコーヒーと老舗和菓子店、空也のもなかをお供に、ジャコモ・マンズーの彫刻やボッティチェリが描いた聖母について美術談議に花を咲かせ、時間を忘れた。

売り場にいけば茂登山さん独特の審美眼に魅了された。「美術愛好家の目を通して選んでいるから、売り場に統一感がある。ブランドなんかに頼らないし、高額品ばかりとも限らないんです」。王様のために織られたペルシャじゅうたんの横には自在鉤(かぎ)。紳士服の上にはアフリカンアートの仮面。和と洋、アートと服が見事に調和する。

中でも、品ぞろえに圧倒されたのが、美術番組のインド収録のために借りた服だった。「当時のインドでは、貴族はオートクチュールのように自宅に素材を持ってこさせて服を仕立てていました。そんな服をサンモトヤマが当時輸入していたのには、本当に驚きました」

■売られてもけんかはするな

「商売人、けんかせず」。真野さんが心に刻んでいる、茂登山さんの大切な教えがある。人間関係はいつどこでつながるかわからない。売られてもけんかはするなというのがモットーだった。「俳優は演技というサービスを提供する仕事。腹が立っても、あなたとは縁を切ります、というのは絶対にするまいと思うようになったのは、茂登山さんの言葉があったからです」

売り場では「まるで私を待っていたかのように」すてきなものと出合い、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、高額品を「清水買い」することがある。「安いものをちょこちょこ買うのではなく、10回我慢して、思い出に残るものを1つ買う。それが大事だと茂登山さんが教えてくれました」

◇   ◇   ◇

2016年、東京・新橋の日本料理の名店「京味」主人の西健一郎さんは、茂登山さんから「あげたいものがあるから」と言われ、自宅を訪ねた。贈られたのはじゅうたん。「後で調べたら海外のすごいものでね。茂登山さんは私に、何か新しいものを見つけると、見せてくれた」

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