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イノベーション「量産」へ パナが挑むデザイン思考 シリコンバレーNextレポート

2018/2/14

シリコンバレーにある「Panasonic β」のオフィス

 パナソニックが2017年に、新しい「工場」を米シリコンバレーに設けたのをご存じだろうか。同社が「Panasonic β」と呼ぶ新組織は、宇宙船のような外観をした米Appleの新本社オフィスの向かいにあり、パナソニックによる「イノベーション量産化のマザー工場」と位置付けられている。

 「品質の高い製品を量産するメソドロジー(方法論)として『生産技術』が存在するように、イノベーションの量産にも方法論や仕組みが存在する。パナソニックにとってのイノベーション量産の方法論や仕組みを生み出す『マザー工場』がPanasonic βだ」。2018年1月中旬に、報道陣にPanasonic βを公開したパナソニックの馬場渉ビジネスイノベーション本部副本部長はそう説明する。Panasonic βは「マザー工場」ではあるが、作っているのは製品ではない。革新的な製品を生み出すための方法論こそが、シリコンバレーにある同拠点が生み出そうとしているものだ。

パナソニックの馬場渉ビジネスイノベーション本部副本部長

 イノベーションには方法論があり、起業や新規ビジネスの創出を目指す人は必ずそうした方法論を学び、訓練して身に付けるべきである――。このような認識はシリコンバレー、特にその中心地である米スタンフォード大学では常識になっている。イノベーションの方法論の一つが「デザイン思考」であり、スタンフォード大学で起業を目指す学生は、同大学の「d.shcool」などでデザイン思考を学び、実践している。

 Panasonic βが開発しているイノベーション量産の方法論も、デザイン思考や「リーンスタートアップ」に基づいている。Panasonic βを率いる馬場氏も2017年4月にパナソニックに転じるまでは、デザイン思考を全社的に実践していることで知られる欧州SAPのシリコンバレー拠点に所属。SAPの顧客である大企業に、デザイン思考を導入する支援をしていた。

■「パナソニックという法人そのものをデザインシンカーにする」

 「プロダクト開発にデザイン思考を導入するのは簡単だ。より重要で難しいのは、パナソニックという法人そのものがデザイン思考の実践者(デザインシンカー)になり、顧客に対する『共感力』の高い会社になることだ」。馬場氏はパナソニックにおける自身のミッションをそう語る。

 デザイン思考では、製品やサービスの顧客に「共感」し、顧客の「痛み」などを理解することが、製品やサービスの開発プロセスの起点となる。実際の開発では、プロトタイプ(試作品)を使った顧客テストを重視。顧客によるテストと顧客からのフィードバックに基づくプロトタイプの改善を何度も繰り返すことで、より良い製品を実現する。

 顧客テストで使うプロトタイプは紙などを使った簡易なもの、あるいはユーザーインタフェース(UI)だけが実装されたソフトウエアや模型などで構わない。「従来のパナソニックでは、プロトタイプとはハードウエアを指し、ソフトウエアやUIは後回しにされていた。そうした従来のやり方とは全く異なる方法論をPanasonic βで生み出す」(馬場氏)という。

 現時点のPanasonic βは、デザイン思考を推進する大企業によく見られる「出島」組織だ。パナソニックのシリコンバレーオフィスの一角に「スタジオ」を設け、パナソニックの社内カンパニー4社から、合計29人のエンジニアやソフトウエア開発者、デザイナーを選抜。そこでデザイン思考やリーンスタートアップに基づく新しい方法論を実践させている。彼ら彼女らが開発しているのは、新しい方法論の有効性を示す実例となる新規プロジェクト「HomeX」だ。

 HomeXの詳細は現時点では未公開だが、「住空間」に関する製品やサービスになるという。Panasonic βは2017年11月までに、製品やサービスの元となるアイデアを1293個生み出し、そこから81個のプロトタイプを開発してテストし、31個のハードウエアプロトタイプを作り、最終製品に近い「住空間プロトタイプ」を3個開発したという。

■「上司ファースト」から「ユーザーファースト」へ

 「これまでは社内の根回しを重視する『上司ファースト』で仕事を進めてきた。Panasonic βには『ユーザーファースト』を最速で進める健全なプロセスがある」。Panasonic βで働くある従業員は、従来のパナソニックにおける製品開発プロセスと、デザイン思考などを取り入れたPanasonic βにおける同プロセスの違いをこう表現する。

 製品化に際しても、従来のパナソニックのように最初から数万個、数十万個のオーダーでの量産を目指すのではなく、数百個から数千個程度のオーダーで製品を作り、市場で実際に試しながら、より良い製品を生み出していく。製造プロセスでは3Dプリンターを積極的に採用。パナソニックのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)部門である米Panasonic Venturesは2017年に、金属材料を使った3Dプリンターを開発する米Desktop Metalに出資している。こうした新しい技術がHomeXの量産に使われる可能性がある。

 Panasonic βの当面のゴールはHomeXの開発や改善を通じて、パナソニックがイノベーションを量産するために必要な新しい方法論を早期に確立することだ。方法論ができれば、それを全社展開することが次の課題になる。「今のパナソニックには36の事業部があるが、37番目の事業部を作ることがPanasonic βの目指すものではない。パナソニックの事業を再定義し、本業を変革する」。馬場氏はそのように語っている。

(中田敦=日経BP社シリコンバレー支局)

[ITPro 2018年1月24日付の記事を再構成]

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