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井上芳雄 エンタメ通信

中谷美紀さんとの演技に半端ない緊張感(井上芳雄) 第15回

日経エンタテインメント!

2018/2/3

井上芳雄です。1月9日に幕を開けた『黒蜥蜴』(くろとかげ)も千秋楽が近づきました。2月5日の大阪で公演が終わります。中谷美紀さんが演じる女盗賊の黒蜥蜴と、僕が演じる名探偵の明智小五郎のだましだまされの対決が見せ場です。美紀さんと舞台で共演するのは初めて。黒蜥蜴と明智の駆け引きを思わせるような、演技の探り合いは楽しく、緊張感を持って臨んでいます。

『黒蜥蜴』は2月5日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演中

美紀さんとは以前、テレビのドラマでワンシーンだけご一緒したことがあるのですが、舞台での共演は初めてです。今回ずっと一緒に演じていて思うのは、美紀さんならではの演技のすてきさです。

映画やドラマといった映像でのお芝居を長くやられてきて、近年は舞台にも出られています。演技のサイズや質感がとてもリアルで、等身大というのでしょうか。それを無理に大きくしたり、大きい声を出したりはしない。でもその中で、どんどん役を深めていって、感情が爆発するところもあれば、本当に小さい声でやるところもある。舞台だけやってきた方の演技とは違うし、映像の演技でもない。美紀さんならではの表現の道がそこにはあるのだなと感じます。

一方、僕は舞台から演技を始めているので、正反対のキャリア。なので、お互いの演技のサイズや質感を探り合いながら、毎日芝居をしているところがあります。目の前で話している人が、どういう声で、どういう大きさで話してくるかは、演じる上でとても重要です。ちょうどいいところを2人で探していく感じでしょうか。向こうが何かやってくれば、こちらも反応するし、こちらが仕掛けていくときもある。そのやりとりが、とても楽しい。長いセリフの場面も多くて、緊張感も半端ではないのですが、それを含めて楽しみながらやれています。

黒蜥蜴と明智は、盗賊と探偵という相対する立場でありながら、犯罪に美しさを見いだしている共通点があり、お互いに強くひかれあいます。その役柄と、同じ距離感の演技になっていると思うので、お客さんからも、面白い組み合わせに見えているのではないでしょうか。

現場の誰よりも気をつかう振る舞い

明智小五郎役の井上芳雄(左)と黒蜥蜴役の中谷美紀(右)

美紀さんはとても美しいし、才能があって、努力もされています。僕は完璧なイメージを抱いていたのですが、実際もイメージ通りでした。

それに加えてすてきなのが、主演にもかかわらず、本当に物腰が柔らかくて、現場の誰よりも気をつかう振る舞いをされることです。アンサンブルからスタッフまで現場の全員の名前を覚えているし、みんなに話しかける。けいこ場での懇親会も率先して催されました。お酒を持ってこられて、食べ物も用意されて。それでいて、いつも謙虚で、「舞台のことは分からないので、皆さんに教えていただきたい」と言い続けています。

僕は逆に、人の名前もなかなか覚えられないし、自分のことで精いっぱいという感じなので、その細かい気配りの素晴らしさに驚き、すごく勉強にもなりました。普通は自分のことを考えるだけでも大変だと思うのですが、ここまで周りを気づかうんだと。

これは想像ですが、自分がどう振る舞い、どういう態度でいると、周りのためによくて、自分も心地よいのかをすごく分かっていて、そのために自分ができることは全部やる。そういう性分なのかなと感じます。

セリフにしても、だいぶ前から準備されていたとおっしゃっていて、稽古の初日からほとんど頭に入っていました。ひとつの仕事にかけるエネルギーが尋常じゃないというか、常に完璧を求めているところがあるのでしょう。それは演じている黒蜥蜴の完璧を求める美学にも通じるものがあり、やはり美紀さんだからこその黒蜥蜴だと思わせます。

唯一無二の演技といい、周りへの気づかいといい、美紀さんは僕がこれまでに出会ったことのないタイプのたぐいまれな女優さん。ご一緒できて光栄ですし、刺激を受けたり、勉強になったりすることの多い毎日です。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第16回は2月17日(土)の予定です。

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