VWアルテオン 「らしくない外観」でハイソ市場狙う
フォルクスワーゲン(VW)が17年10月に日本市場に投入した「アルテオン」。アウディ「A5スポーツバック」やBMW「4シリーズ グランクーペ」に近い、若々しいスタイリングとセダン並みの居住性を両立したモデルだ。ライバルに比べると価格を抑え装備も充実しているが、VWでは成功例が少ない高級車のジャンルで成功を収められるか。実際に試乗して考えてみた。
パサートより一回り大きい
VWが「ジュネーブショー2017」で世界初公開し、日本では2017年10月25日に発売した「アルテオン」は、5ドアのグランツーリズモ(GT)だ。税込み価格は549万~599万円で、日本に導入されているフォルクスワーゲン車の中では、最上級SUVの「トゥアレグ」(税込み649万円~)に次いで高価なモデルで、日本ではVWのフラッグシップカーと言えるだろう。
グレードは19インチホイール仕様の「R-Line 4MOTION」と、20インチホイール、フル液晶デジタルメーターパネル、ヘッドアップディスプレー、アラウンドビューカメラなどが追加される「R-Line 4MOTION Advance」の2つが用意されている。
ボディーサイズは全長4865×全幅1875×全高1435mmと、VWの上級セダン「パサート」よりも一回り大きい。しかしパサートよりもスペシャルティカーの要素が強く、スポーツカーを意識したクーペのようなデザインも特徴的で、流麗でアグレッシブな印象だ。
インテリアは黒を基調にアルミやピアノブラックのパネルを配してクールで上質感がある。ホールド性を高めたシートの表皮にはナパレザーを使用し、運転席と助手席にシートヒーターが付く(R-Line 4MOTION Advanceでは後席左右にも)。さらに、運転席にはマッサージ機能も備わっており、全体として快適性が重視されている。
またカーナビ付きの純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」、LEDヘッドライトおよびLEDテールランプなど、さまざまな装備が標準で用意されている。
ホイールベースはパサートより45mm長い2835mmで、後席スペースが広く感じられる。ラゲッジスペースも563L~最大1557Lで、しかもバンパーの上まで伸びる大きなリアゲートにより、見た目以上に荷物の積載性にも優れるのも特徴だ。
パワートレインは1タイプのみで、280ps/350Nmを発揮する2.0L直列4気筒ターボエンジンを搭載。トランスミッションには、デュアルクラッチ式の7速DSGを組み合わせる。駆動方式は4WDだ。
先進安全運転機能は、全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロール、渋滞時に自動運転レベル2のアシストを可能とした渋滞時追従支援機能「Traffic Assist」、前進および後退時衝突被害軽減ブレーキ付き駐車支援機能「パークディスタンスコントロール」などを搭載しており充実している。
ボタン一つでスポーツカーに変身
アルテオンは、アウディ「A5スポーツバック」やBMW「4シリーズ グランクーペ」に近い存在で、セダン並みの居住性、ステーションワゴンまでとはいかないがセダンに比べると圧倒的に広い積載能力、そしてスポーツカーらしい若々しいスタイリングという共通項を持つ。実車を目の前にしてみると、スポーツカー然とした華やかさがあり、素直にカッコいいと感じる。
乗ってみると、高級セダンのような心地良さ、車内の静かさを実感する。2.0Lターボエンジンと聞くとインパクトに欠ける気がするが、最高出力が280psもあるので、加速は文句なく力強い。しかもアルテオンには「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム(※ユーザーの自由な設定が可能なモード)」という走行モードがあり、例えばスポーツを選択すると、エンジンや足回りなどの各部セッティングが変更され、スポーツカー顔負けの勇ましい排気音が鳴り響く。変速タイミングもより俊敏になり、使用するエンジン回転数の領域も広がるので、より力強い走りが楽しめるようになるわけだ。
つまり普段は高級セダンのような快適性を得つつ、モードを変えればスポーツカーとしての走りも楽しめるのが、このクルマの魅力と感じた。スポーツカーのようなパワフルさはVW「ゴルフ」の高性能モデル「ゴルフR」と共通の基本性能が高いパワートレインを使うことで実現している。しかもスポーツモードでも乗り心地の良さは維持されているので、後席に乗っていても快適だ。
ボタン一つでスポーツカーに変身する高性能な高級車が人気の昨今、アルテオンもそのセオリーを踏襲したのだろう。
高級志向のVW車はほとんど成功例がないが
600万円弱という価格はゴルフRやパサートのプラグインハイブリッドの「GTE」も買える、VWの中ではかなり高価格帯のクルマだ。ただライバルメーカーの同等モデルと比べると、装備内容が良く値段も抑えられており、コストパフォーマンスが高いと言える。ところがブランド力や高級感ではライバルたちのほうが上。アルテオンは、その弱点をデザインでカバーしており、街中で見かける程度ならVWと気づかない人がいるのではないだろうか。
また、個性的な4ドアおよび5ドアクーペを選ぶユーザーはブランドに縛られず、フレッシュな商品を求めるケースもあると聞く。実際、同社広報部によれば、ライバル他車や、より高価な他ブランドのハイエンドモデルを検討中の人がアルテオンを見にくるケースが少なくないという。具体的な数はまだ明かされなかったが、初期受注は想定を上回りそうだという。これもアルテオンが新たな価値、スタイリッシュさなどをクルマに求めるユーザーにグッとくる1台だからだろう。
VWのクルマはどちらかというと親しみやすいというイメージが強く、高級車ではあまり成功例がない。インパクトのあるデザインと現在の高級車トレンドをうまく盛り込んだアルテオンはこのジンクスを覆せるのかどうか、個人的には楽しみな1台だ。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット2018年1月19日付の記事を再構成]
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