5億年前の多毛類の新種 驚異の化石、神経の痕まで
驚くほど良好に保存された、小さな多毛類(ゴカイ類)の新種化石が発見された。神経とみられる軟らかい組織の痕も残っており、環形動物門の頭部がどのように進化したのかを解明する手掛かりにもなりそうだ。
5億年以上も前のこと。いまのカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州クートニー国立公園にあたる場所で、激しい泥流が発生した。このとき、水中にいたゴカイのような小さな生きものが死に、泥に閉じ込められた――。これは近年発見された化石について、カナダ、トロント大学の博士課程学生であるカルマ・ナングル氏が考えた仮説の一つだ。この生きものはゴカイなどが含まれる多毛類の新種で、「Kootenayscolex barbarensis」と名付けられ、2018年1月22日付の学術誌「カレントバイオロジー」に発表された。
論文の主要筆者であるナングル氏は、この化石を「衝撃的に良好な状態」と評価する。体長が約2センチしかない小さな体の両側には、髪の毛ほどの細さの微小な剛毛が多数生えている。さらに驚くべきことに、ゴカイやミミズ、ヒルなどを含む環形動物の化石では初めて、神経や管状の組織らしき痕が見つかった。
頭部には「副感触手」という長い筒のような構造があり、前方の地面の様子を感じ取るのに使ったのではないかとナングル氏は言う。カンブリア紀に生きていたこの生物は、海底を這いながら有機物を食べ、そしてほかの種に捕食されることで、食物網のサイクルに関わっていた。彼らの子孫であるいまのヒルやミミズもよく似た機能を担っている。
500種を超える化石のなかでも「決定的」
数億年前、この化石が見つかった地域には、同様の小さな多毛類が無数にいただろうと研究者たちは考えている。
この化石を発掘するにあたり、研究チームは国立公園のなかにある「マーブル・キャニオン」という狭い発掘サイトに的を絞った。かの有名な化石堆積層であるバージェス頁岩の一部だ。このサイトが2012年に初めて見つかって以降、初期の多毛類の化石が500種以上も見つかっているが、なかでも軟らかい組織の痕が残るこの化石は「決定的」とナングル氏は評価する。
なぜなら、こうした生物の体を作っている軟組織は、普通は簡単に分解されてしまい、化石になりにくいからだ。対して、この化石は保存状態が良好であり、研究者たちにとって、環形動物門の頭部がどう進化したのかを解明する手掛かりになっている。
従来の研究では、グリーンランドで見つかった環形動物の化石に基づき、これらの種に頭部はあったが、体との区別はつかなかったとされていた。ナングル氏によると、それらの化石は、近年カナダで見つかった物に比べて保存状態がずっと劣るという。新しい化石は、これまでよりも体の多くの部分がはっきり確認できるとのことだ。
「私たちは従来の説とは違い、環形動物の頭部は進化の早い段階から頭らしくなっていたと考えています」とナングル氏。
「物語はまだ終わっていません」
ナングル氏は次のステップについて、カンブリア紀の広い範囲の生態系で、これらの生物が果たしていた役割を調べることだと話す。こうした多毛類が生きていたときは、太古の節足動物とも共存していただろう。現在の動物ではカニ、クモ、昆虫などを含むグループだ。
あらゆる動物は、太古の姿から進化して今に至っている。ナングル氏は、比較的進化の初期段階におけるこうした生物の形質の解明を進め、生命の進化をひもとく科学に貢献したいと考えている。
今回の化石発見について、「これまでよりもずっとイメージが鮮明になりました」と言いつつ、ナングル氏はこう続けた。「物語はまだ終わっていません」
(文 Sarah Gibbens、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年1月26日付]
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