日経デザイン

流行:自分の店に来るお客から流行を感じ取る

新作会議は月に1回。誰でもアイデアを出すことができる。大切なのは「こういう用途でこの人に使ってほしい」「こんなのあったら便利だな」といった作り手個人の『思い』だという。来店客と直接話しながら、流行やニーズを感じ取る。「ここにポケットがあったら」「こういう商品ないですか」といった声も、新作のアイデアに生かされ、ロングセラーの定番品も年々進化させている。「何か新しいものを作ろうと意気込んだところで、面白いものはできへん」と信三郎さん。

また「使ってみなければ、値打ちがあるかどうかは分からない」と、試作品はアイデアを出した本人はもちろん、同僚や家族に使ってもらう。生産はすべて社内で行っているので、試作品の製作も、試作品の不具合を改善して作り直すことも容易にできる。焦って製品化することはなく、じっくり作る。完成まで1年ほどかかることもあるという。

リピーターも多く、修理の依頼は月100件ほど。修理賃は実費だが、新品の半額以上になりそうな状態の場合はお断りすることもある。だが、それでもいいからとお願いされることも珍しくない。修理を担当するのは、同じ型の新品を作っている職人だ。修理をすると、傷みやすいところが分かり、縫い方を工夫するなど改善にもつながっている。

作業は2人1組で行われる。ミシンの職人が縫いやすいように、別の職人が折り目をつけている
修理したかばん。日本への旅行のついでに修理に出す外国人旅行者もいるという

つづく:京都から出ない

一澤信三郎帆布で使用している帆布は、一澤信三郎帆布用に織ってもらったオリジナルだ。色については、帆布をかばんに加工して使うことを前提に、色あせしにくいように生地の芯まで染めてもらっている。縫い合わせる糸や縫い代を覆うテープも厳選した天然素材で、ボタンやハトメ、ファスナーなどの金具は、さりげなくブランド名やロゴを入れた特注品もそろえている。素材から作っているため、信三郎さんは「廃番や廃色という概念がない」と言う。店頭に並んでいない商品も、作ろうと思えばいつでも作れるからだ。

かばんの形をしたファスナーの引き手部分。ロゴ入りで縫い目やカシメなども表現したオリジナル

コンピューター制御のミシンは使わず、戦前のミシンも現役。「今の時代はコンピューターや機械に人間がコキ使われてる。うちはまだ、かろうじて機械を使っている」と信三郎さん。その考えはオンラインショップを立ち上げないという考えにも通じるものだ。

別注品のオーダーも多い。かばんはもちろん、カフェの座席下に置く荷物入れやセンター試験の問題用紙を入れて運ぶための袋なども作った。地元の学校や幼稚園などからランドセルやかばんの注文も入るという。小ロットの注文であれば、細かいオーダーにも応えられる。大量生産していないからこそ、実現できることはたくさんあるのだ。

2016年8月に開催された国際会議「ICR2016 」の記念品。会議資料を入れて配られた
ロングライフデザインの秘密
上 水玉模様で95年 カルピスの思い、時代超えて継承
中 奇跡の乗り物スーパーカブ 実用の美、磨き続けて60年
下 一澤信三郎帆布 「時代遅れ」貫き、ファンが急増

(日経デザイン 西山薫)

[日経トレンディ2017年12月号の記事を再構成]

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