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男性の場合は「恥ずかしい」という理由で便秘を隠す人もいる。しかし、便秘を長期間放置すると、たまった便によって腸に穴が空き、最悪の場合は死亡してしまうケースもある。さらに便秘は大腸がんなどの重篤な腸の疾患が原因になっていることもあるため、病院で正しい診断を受けることが重要だ。米国の調査では、便秘の人とそうでない人を比べると、便秘の人は生存率が低いというデータがある(図2)。「たかが便秘」とあなどることはできない。

慢性便秘がある人(622人、平均年齢59歳)とない人(3311人、同53歳)の生存状況を15年間追跡したところ、便秘がある人の方が、生存率が有意に低下していた。(出典:Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010 Apr;105(4):822-32.)

エビデンスのある治療薬が次々と登場

便秘の治療では、薬を飲む前にまず生活指導が行われる。基本は、適度に運動をして十分な睡眠をとること、そして食物繊維不足に気を付けることだ。「便秘の患者さんの中には、1日2gくらいしか食物繊維をとっていない人もいます。わが国の推奨量は、成人男性で1日20g以上、成人女性で1日18g以上です。極端なダイエットでも食物繊維の摂取量が減り、便秘の原因になります。私の経験では、ダイエットが原因で便秘になると、その後10~20年は便秘が治らないことがあります。食生活の乱れは便秘の大元です」と中島氏は話す。これらの生活習慣の見直しを行っても便秘が改善しない場合は、飲み薬を使用する。

【酸化マグネシウム】便を軟らかくするが、高齢者や腎機能の悪い人は要注意

日本で古くから広く使われている薬は、酸化マグネシウム(商品名:マグミットほか)だ。この薬は、腸内で胃酸や膵液(すいえき)と反応することで塩類の濃度を高め、浸透圧を働かせて腸管から腸内へ水分を移動させ、便を軟らかくする。

酸化マグネシウムは、繰り返し使用しても効果が弱まる(便秘が悪化する)ことがないという利点があるが、腎機能が低い人や高齢者が長期間にわたって使うと、血中のマグネシウム濃度が上がり、高マグネシウム血症になる可能性がある。高マグネシウム血症は、だるさや脱力、血圧低下などを引き起こし、命に関わる場合があるため、高齢者や腎臓が悪い人が酸化マグネシウムを飲む場合は慎重に使用し、定期的に血中のマグネシウム濃度を測定する必要がある。

【センナなどの刺激性下剤】作用が非常に強力で、依存性が高い

もう1つ身近な便秘薬といえば、センナを代表とする刺激性下剤だろう。刺激性下剤は、大腸の蠕動(ぜんどう)運動を促して排便を起こす効果の強い薬だ。「日本は刺激性下剤大国といわれています。刺激性下剤は薬局でも売られている薬ですが、作用が非常に強力で、毎日飲むと水のような便になってしまいます。依存性が高く、飲む量がどんどん増えるので注意が必要です」(中島氏)。

【ルビプロストン】慢性便秘症への確かなエビデンスあり。吐き気に注意

近年、便秘の治療薬は進歩している。2012年から使えるようになったルビプロストン(商品名:アミティーザ)は、便秘治療薬としては32年ぶりの新薬だ。「これまでの便秘薬には、臨床試験に基づいた科学的根拠(エビデンス)はありませんでした。ルビプロストンは慢性便秘症患者を対象とした臨床試験を経て、どんな患者にどれくらい効果があるかという科学的根拠が確認されている画期的な薬です」(中島氏)

ルビプロストンは上皮機能変容薬と呼ばれ、今回のガイドラインで推奨度が最も高いランクに評価されている。小腸に働きかけて水分の分泌を促すことにより、便を軟らかくして自然に排出しやすくする。慢性便秘症の患者242人が、ルビプロストンを1日48μg(2カプセル)、4週間服用した臨床試験では、プラセボを服用したグループと比べて24時間以内に自発的な排便が有意に増加し、硬便やいきみなどの症状も有意に改善した[注1]。また、48週間飲み続けても効きにくくなることはなく、効果が持続するという臨床試験の報告もある[注2]

注意点として、ルビプロストンは妊婦には使用できない。また、「若い女性では吐き気が起こることがあります。ただ、高齢者には起こりにくいため、酸化マグネシウムを使いにくい高齢者には有効性が高い薬です」と中島氏は話す。

なお、上皮機能変容薬にはルビプロストンのほかに、2017年3月に登場したリナクロチド(商品名:リンゼス)という薬がある。現在リナクロチドは、過敏性腸症候群[注3]の便秘型に限って使われているが、2017年9月に、新たに慢性便秘症に関する効能・効果追加の承認申請が行われており、承認されれば、慢性便秘症の患者にも使うことができるようになる見込みだ。

普段は「便を軟らかくする薬」、つらいときは「刺激性下剤」

では、これらの薬を医師はどのように組み合わせて使うのだろうか。中島氏によると、「普段はルビプロストンや酸化マグネシウムなどの便を軟らかくする薬を使い、便が出なくてつらい時だけ刺激性下剤を飲む」ことが勧められるという。

[注1] Johanson JF, et al. Am J Gastroenterol. 2008 Jan; 103(1): 170-177.

[注2] Fukudo S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2015;13:297-301.

[注3] 過敏性腸症候群:腸管に明らかな異常が見つからないにもかかわらず、腸の機能異常が起こり、腹痛あるいは腹部の不快感と、それに関連する便通の異常が続いている状態。下痢型と便秘型がある。

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