「確かに、アルコールを大量に摂取すると中性脂肪を増やすことにつながると言われています。アルコールの飲み過ぎが『アルコール性脂肪肝』を引き起こすことも知られています。しかし、アルコールは、適量を守って飲めば害にはなりません。適量までなら、むしろ血中の中性脂肪値や脂肪肝などにいい影響を及ぼすのです」(栗原さん)
実際、栗原さんは、過去40年にわたって患者を診てきた中で、多数の脂肪肝患者に接してきたが、アルコールの飲み過ぎで「アルコール性脂肪肝」になる人は多くなかったという。むしろ今は、アルコールを飲まない人の間で脂肪肝が増えているのだという。
「このため、私は『アルコール単体では中性脂肪の数値はなかなか上がらない』と考えています。実際、私の患者で日本酒1升、ブランデー1本を一晩で飲んでしまう方がいるのですが、この方の中性脂肪は基準値以内です。この方はかなり極端にしても、中性脂肪を基準にして見た場合、お酒は全く飲まないより、日本酒なら1~2合までならむしろ飲んだほうがいいでしょう。もちろん飲み過ぎはダメですが、実際、患者にも適量飲酒を勧めています」(栗原さん)
「飲酒量と中性脂肪値や脂肪肝などの関係を調べた研究結果で、1~2合くらいまでの飲酒(アルコール量20~40g未満)であれば、中性脂肪値は上がらないという報告も出ています」(栗原さん)
もちろん飲み過ぎはダメとしても、「適量までなら、アルコールだけでは中性脂肪が上がらない」とはなんてうれしい結果だろう!
この研究は、北海道・苫小牧市にある王子総合病院健診センターで健康診断を実施した男女3185人を、「お酒を飲まない人」「1日当たりアルコール20g未満飲む人」「20~40g未満飲む人」「40~60g未満飲む人」「60g以上飲む人」の5グループに分け、肝機能値や、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪などを調べたデータだ(肝臓. 2010;51(9):501-507.)。
それによると、中性脂肪の数値はアルコール量が20~40g未満(日本酒なら1~2合程度)であれば、酒を飲まない人とほぼ変わらないという結果が出ている。なお、HDLコレステロールは飲酒量が上がるほど増加、LDLコレステロールは減少する傾向が見られた。
おつまみを食べ過ぎる人は危ない?
左党にとっては印籠を渡されたような気分だが、「じゃあ、なんで酒飲みは中性脂肪が高いの?」という疑問が残る。「酒飲みは中性脂肪が高い」というのは私の周りだけだったのだろうか。もちろん「飲み過ぎ」の人もいるだろうが……。栗原さんに疑問をぶつけると、明快な回答が返ってきた。
「答えは簡単。おつまみを食べ過ぎているんです。最初からポテトサラダを食べちゃうような人は、たいがい中性脂肪が高いですね。お酒を飲まない人でも、食べ過ぎの人は中性脂肪が高くなりがちです」(栗原さん)
そうか、中性脂肪の元凶は「おつまみ」、要は食べ過ぎだったのか! 居酒屋に行ってまずポテトサラダを頼む筆者にとっては耳が痛い……。
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とはいえ、中性脂肪を減らしたいなら、飲み過ぎは控えるにしても、適量までなら大丈夫と聞いてホッとした。左党の皆さんも今ごろ、胸をなでおろしているのではないだろうか? むしろ、おつまみが問題だったというのは、かねてから「注意するのは酒よりおつまみ!」と訴えていた私にとってもうれしい結論だ。
では、具体的におつまみ・食事をどうすればいいのだろうか。当然、食事だけでなく、運動面でも対策をしたほうがいいだろう。後編では、これら、具体的な対策について、栗原さんに引き続き話を聞いていく。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)
[日経Gooday 2018年1月5日付記事を再構成]