「中性脂肪とはヒトのカラダに存在する脂質の一種で、身体活動のエネルギー源になります。体脂肪のほとんどが中性脂肪で、別名『トリグリセリド(TG)』と呼ばれています。主な働きは食べ物が足りないときのエネルギーの貯蔵庫、内臓の保持、体温を一定に保つなどさまざまです」(栗原さん)
なるほど、中性脂肪はカラダにとって重要な役割を果たしてくれているではないか。とはいえ、過ぎたるは及ばざるがごとし。中性脂肪が多すぎることが問題なのだろうか。素人的にはコレステロールのほうが厄介で、中性脂肪は多少、多くても問題ないように思うのだが……。
「それは違います。中性脂肪はコレステロールより注意しなくてはなりません。中性脂肪は肝臓で作られるほか、小腸でも作られます。過剰になると小腸の血管からしみ出て、周囲の内臓や血管に蓄積されます。いわば内臓肥満型になります。また血中の中性脂肪が高くなると脂質異常症の1つ『高トリグリセリド血症』となり、血液がドロドロの状態になります。これによって血管が老化し、動脈硬化を加速させ、心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な疾患を引き起こす原因になるのです」(栗原さん)

「一方のコレステロールは、細胞膜や神経細胞を作る材料となります。さらに各種ホルモンや胆汁酸の材料としても使われています。コレステロールというと、何となくカラダに悪いものと思っている方が少なくありませんが、実はカラダにとってなくてはならない大切な存在です」(栗原さん)
「そして、コレステロールには善玉(HDL)と悪玉(LDL)があるのはよく知られています。悪玉(LDL)は低いほうがいいと思われていますが、これも必ずしも正しくありません。少々難しい話になりますが、LDLはコレステロールの『運搬役』、HDLはコレステロールの『回収役』で、いずれも必要なものなのです。問題なのは、HDLコレステロールの不足で、LDLコレステロールが高くても、HDLコレステロールが高ければ基本的に問題ありません」(栗原さん)
なるほど、悪玉のLDLコレステロールだけ高いという状態はよくないが、善玉のHDLコレステロールが高くて、善玉と悪玉のバランスがとれていれば大丈夫というわけだ。
中性脂肪が多いと、善玉/悪玉コレステロールの比率に影響
そこで栗原さんは「さらに怖いことがある」と話す。実は、中性脂肪が多いと、このHDLコレステロールとLDLコレステロールのバランスを崩してしまうのだという。さらに「超悪玉コレステロール」を生むという。
「中性脂肪が過剰になると、HDLコレステロールが減ります。さらにはLDLコレステロールを小型化し、『小型LDLコレステロール』という『超悪玉コレステロール』を生み出すことも分かってきました。これがまた非常に厄介なのです。超悪玉コレステロールはサイズが小さいため、血管壁に入り込み、蓄積しやすく、酸化されやすいという特性を持っています。また一般的な悪玉コレステロールに比べ、血管内に長くとどまることから、動脈硬化の進行をさらに加速させてしまうのです」(栗原さん)
「繰り返しになりますが、コレステロール単体で見れば、HDLコレステロールの数値が高ければ、LDLコレステロールが高くてもそう問題はありません。しかし中性脂肪が高いと、コレステロールの質が悪くなり、確実に動脈硬化が進むので注意が必要です」(栗原さん)
中性脂肪値の上昇も脂肪肝も原因は同じだった!
ああ、やはり私は、中性脂肪やコレステロールについて、きちんと理解できていなかったようだ。先生、もしかして左党に多い脂肪肝も中性脂肪が関係しているのでしょうか?

「大いに関係あります。脂肪肝は血液中の中性脂肪の数値が高くなる前に表れる症状なのです。脂肪肝は肝臓の細胞が中性脂肪をためこんで白く膨張した状態を指します。これまで脂肪肝は軽く見られることが多かったのですが、最近では、脂肪肝から「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に発展することが問題視されるようになりました。これによって肝臓の炎症や壊死が引き起こされ、肝硬変や肝臓がんに早く進展することがあるのです」(栗原さん)
ううむ、こうなると、コレステロールより、中性脂肪のほうが怖いではないか……。肝硬変、肝臓がんになってしまったら、酒とは無縁の生活になってしまう。
■2合くらいまでなら、飲んだほうがいい?
さて、中性脂肪の怖さが理解できたところで、いよいよ本題。アルコールと中性脂肪の関係はどうなのだろうか。一般に「アルコールが中性脂肪を増加させる犯人」のように言われることもあるが、実際はどうなのだろう?