次世代の新幹線N700S 細かすぎる5つの変更点
東海道新幹線の次世代車両「N700S」が2018年3月に完成する。各種試験を経たあと、東京五輪が開催される2020年をめどに営業運転を始めるという。現在の主力車両N700系がデビューしたのは2007年のこと。10年経つのでフルモデルチェンジ車両といっていいはずだが、いざ実車を目にすると、正直どこが変わったのか分かりにくい。今回はそんなN700Sの「細かすぎて伝わらない」5つのポイントを紹介しよう。
ポイント1:なぜ今回もN700系?
まず分かりにくいのが、「N700S」という名前(鉄道業界では「形式」と呼ぶ)だ。現在の主力は「N700」であり、2013年に登場した改良版は、後ろに「Advance」を意味する「A」を付けて「N700A」となった。今回はフルモデルチェンジ車両なのに、なぜよく似たN700Sという名称になったのか。ちなみに「S」は最高を表す「Supreme」を意味するという。
JR東海は「N700という名称が広く親しまれているため」と説明する。それは一理あるものの、新車ということは伝わりにくいのではないだろうか。
700の次の800が九州新幹線で使われており、続く900は「ドクターイエロー」など事業用の車両に割り振られているため、頭打ちにならざるを得ないのかもしれない。ただJR東日本が山形新幹線用の400系の後、E1系に先祖返りしたように、付番ルールを大きく変えるという選択肢もある。
ちなみに北陸新幹線用のE7・W7系も、各車両に割り振られている番号は700番台。しかも714~726で、N700の前の主力車両だった700系の719~727と被っている。実際にはその前に「E」(JR東日本保有車)もしくは「W」(JR西日本保有車)が付くうえ、線路がつながっているわけではないので良しとされているようだ。
ポイント2:エラが少し張っている
報道公開で展示されたのは、塗装前の先頭車両。ぱっと見、N700系との違いは分からなかった。
説明によると、先端部の左右、つまりヘッドライトの部分が少し盛り上がっているのだという。たしかに言われてみるとそうだ。すこし「エラが張っている」という表現になるだろうか。
素人考えでは、凹凸をなくしたほうが空気抵抗が減っていいように思えるのだが、そうでもないらしい。あえてエッジを立てて風を集めることで、車両の振動を抑える効果が出るのだ。今回の形状変更により、最後尾となったときの左右の揺れが軽減できるという。
それにしても、そんな間違い探しのような細かな違いに留まったのはなぜか。JR東海の新幹線鉄道事業本部車両部の古屋政嗣担当部長に疑問をぶつけてみたところ、「N700系とは、座席の数もドアの位置も変えていない。そのような条件の中で最新の技術で解析したところ、この形状が最適と分かった」とのこと。つまり、N700系の「顔」は技術的にほぼ完成したものだったということだ。
ただ古屋氏の言葉にもあったように、それは座席の数やドアの位置を変えないという条件のうえでのこと。JR東海はダイヤが乱れた際、予定とは異なる車両を使っても混乱が起きないように、そのような条件を設けている。逆に、JR東日本の新幹線車両は、東北・北海道新幹線や北陸新幹線、秋田新幹線など路線によって条件が異なっており、「顔」もバラエティーに富んでいる。
ポイント3:カラーリングでも識別は難しい?
形が似ていても、塗装が変われば印象は大きく変わる。例えば東海道・山陽新幹線「のぞみ」などに使われている車両と、山陽・九州新幹線「さくら」などで使われている車両は、どちらもN700系。しかし、色が違うので全く異なる車両だと思っている乗客も少なくないだろう。
公開された車両は塗装前でアルミの地肌そのままだったが、近くには完成予想の模型が置かれていた。これがまた現行のN700系と瓜二つなのだ。よく見ると先頭に伸びる青い帯の形が変わっているが、それだけ。白いボディに青いラインという姿は不変だ。
デザインを監修する福田哲夫氏は「長年変わらない車体の色が安心感につながっている」と、デザインを大きく変えることには否定的。先頭に伸びる帯は「S」をイメージしたデザインとのことだった。
鉄道に詳しくない人が見分けるポイントは側面に付くロゴになりそう。現在のN700系でも当初の車両とN700Aで異なるロゴが描かれている。N700Sには別のロゴを作成するとのことで、斬新なデザインを期待したいところだ。
ポイント4:大きく変わるのは見えない部分
見た目は代わり映えしないN700Sだが、技術面では大きく変わるという。その最たるものが「標準車両」という考え方だ。
車両にはさまざま機器を搭載する。すべてを1両に詰め込むことはできず、これまでは搭載機器により車両は8種類に分かれていた。N700Sでは、最新の半導体技術により、駆動装置を半分以下のサイズに小型化。その結果、1つの車両に従来より多くの種類の機器を搭載できるようになり、車両を4種類に統合できた。
これによって容易になるのが編成の組み換えだ。以前、JR西日本が山陽新幹線の「こだま」で4両編成や6両編成の新幹線を走らせていたことがあった。その際は、モーターが付いている中間車に、モーターがない先頭車から運転台部分を「移植」する大手術が必要になった。それほど、編成を短くするのは難しい。しかしN700Sでは4種類の車両を組み合わせることで、16両だけでなく12両、8両といった短編成を組むことも可能という。
もっとも、東海道新幹線は16両編成で統一されており、今のところ短編成の必要はない。考えられるのは、山陽新幹線や九州新幹線などで走る短い編成の置き換え。N700SはJR東海の単独開発で、使うかどうかはJR西日本やJR九州の意思に委ねられるようだ。ただ、過去も東海道新幹線をベースにした車両を導入しており、可能性は高い。
もう一つが、JR東海が推し進める海外への輸出だ。台湾高速鉄道で走っているのは700系がベースの車両。この置き換え需要が見込めるほか、北米などでもプロジェクトの検討が進んでいる。いずれも16両編成では輸送力過剰なので、短編成化が容易なことは武器になる。
ポイント5:全席にコンセントを装備
客室の実物大のモックアップも公開された。工場の一角に設置された「部屋」だが、中に入るとまるで新幹線に乗っているかのようだ。
まず体験したのはグリーン車。N700系と大きく異なるのは、間接照明になった点。指向性が強いLED照明を採用するため、室内を均一に照らすには間接照明のほうが優れているためだ。
次に目につくのが、窓側の壁面パネルが荷棚と一体化された点。前後の席との間に柱のようなふくらみを作り、少しでも個室感を出そうという狙いがある。
車内テロップは一見現在のフルカラーLEDと同じように見えたが、実は液晶画面。画面サイズも従来より50%大きくなっているという。何を表示させるかは未定とのことだが、文字だけでなく映像が流れるようならイメージは大きく変わりそうだ。
座席も見た目はさほど変わらないが、実はリクライニング機構が大きく変わる。N700系ではリクライニングすると腰の部分が沈み込むゆりかごのような「シンクロナイズド・コンフォートシート」を採用。背もたれを倒した角度よりも深いリクライニング感が得られるのが特徴だった。ただ座面の奥側だけが沈み込むため、足が持ち上げられる格好になる。足が浮くとやや疲れるという声もあったという。
そこでN700Sでは、リクライニングの回転中心がくるぶしに来るように変更。具体的には座面全体が沈み込むようにしている。地味だが、座ってみると違いが分かる。
次に普通車。こちらもLED間接照明、液晶画面による車内テロップなのはグリーン車と同じ。
最大の特徴は、全席にコンセントが備わる点。これまでは窓側と車両の端にしかなく、争奪戦になっていた。これが解消されるのは大きい。コンセントは肘掛けに設置される。座るとコンセントが見えず、やや使いにくい気もする。しかし理由を聞いて納得。前席の下に設置すると、人が出入りするときに足にケーブルを引っかかることがある。これを避けたかったのだという。確かにそのような経験は身に覚えがある。
もう一つ、見ただけでは気づかないが、普通車のシートも「ゆりかご化」。ただこちらは従来通りの腰の部分が沈み込むタイプで、グリーン車とは差がある。
以上のように、あっと驚くような目新しさはないが、地味に改良が加えられているN700S。N700系によって700系が淘汰されるのが19年度。今度はそのN700系を、N700Sが置き換えていくことになる。
(日経トレンディ 佐藤嘉彦)
[日経トレンディネット 2017年11月20日付の記事を再構成]
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