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若手リーダーに贈る教科書

元産業医が明かす 健康診断の落とし穴 亀田高志著 「健康診断という『病』」

2018/1/13

 国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は「健康診断という『病』」。11年間産業医を務めた著者が、会社で行う健康診断についての誤解や働きながら健康を保つヒントを紹介する。

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亀田高志氏

 著者の亀田高志氏は1991年に産業医科大学を卒業した医師で、国内の大手企業や外資系企業で「産業医」として11年間経験を積みました。現在は健康企業という会社の代表を務め、企業や自治体向けに医療や健康管理についてのコンサルティングや研修、講演などを行っています。産業医というのは、企業に従業員の健康管理について指導・助言し、健康診断を実施する医師です。健康診断の「プロ」だった著者が指摘する健診の問題点や健康を守りながら働く心構えなどが本書の読みどころです。

■「健診」は社員のためではなかった?

 電通の違法残業事件が社会に衝撃を与え、働く人の健康を守るという視点からも「働き方改革」が迫られています。働く人の健康管理をめぐっては、企業に従業員の心の健康状態の点検を義務付ける「ストレスチェック制度」が2015年に始まるなど、制度的には少しずつ充実してきました。そのなかで長く中心的な役割を担ってきたのは、やはり「定期健康診断」です。年に一度の「健診」の結果に一喜一憂する人も多いのではないでしょうか。

 健診の費用は会社が負担しています。このため会社が従業員の福利厚生の一環としてしているように思っている人もいそうですが、法律や制度の目的でみると従業員のためではないのだそうです。

 平成28年度末に厚生労働省が「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会報告書」を公表しました。その中に健康診断の目的が明言されています。分かりやすく説明すると、「今の作業や労働に耐えられるか、それを続けさせても、脳卒中や心臓発作を起こしたりしないかを確認し、それらを防止するために行う」とあります。様々な検査を無料で受けられるメリットはありますが、本質的には会社のために行われているのです。決して福利厚生の一環としてのサービスではありません。
(第1章 「残念な健康診断」の実態 22ページ)

 これを知ると、健診にからんで近年、「メタボリック症候群」の恐ろしさが強調されているのも、うなづける気がします。「メタボ」は動脈硬化が進みやすく、脳卒中や心臓病へと進んでいくリスクが大きい状態です。医師らが「運動しろ」とか「食生活を改善しろ」と指導するのは、もちろん当人の健康のためですが、一方で法律が求めていることでもあるのです。

 著者は、健診が会社の義務という位置づけなので「会社や産業医などの専門家は『定期健診を行うこと自体が目的』になっていきます」と明かします。健診結果をどう生かしたか、従業員は本当に元気になっているのか、生活習慣病は減っているのかなど、実際の効果は意識の外に置かれがちです。保健指導を受けたり、病院で診察してもらったりという段階になると、個人の意思にまかせる場合が多くなります。だからこそ、健診の結果を放置せず、自らの健康状態を把握して生活を改善し、病気予防に役立てていくという、個人の心構えが必要になるのです。

■「健診」で病気は見つけられる?

 「健診」は、特定の病気を早期に発見するための「検診」とは違います。「健診の血液検査や尿検査で異常な結果が出て、精密検査を受けたら……」とか「胸部エックス線検査で影が見つかり、検査したら肺結核が……」といった形で病気が見つかることもありますが、例外的なケースです。

 日本人の死因で一番多いのは「がん」(悪性新生物、厚生労働省の16年人口動態統計)ですが、それを見つける「検診」を実施している会社は少数派です。ただ「人生100年時代」とまでいわれ、高齢でも会社勤めを続ける人が多くなると、働いているうちにがんだと分かる可能性は高まってきます。著者によると「がんの多くは老化によるもの」だからです。

 還暦から古希を迎える10年間をイメージして、20人いた男子のクラスメイトのうち3人はがんになるとしたら、どう思われるでしょうか。そして一生のスパンで考えると、がんにかかる確率は男性で62%、女性は46%、がんで亡くなる確率は男性25%、女性16%であることが分かっています。がんを患うということは、長生きすればむしろ普通のことなのです。
(第2章 職場でなぜがん検診が受けられないのか 74ページ)

 「働く人のがん」が、ますます一般的になると予想されるのに、多くの会社でがん検診がない理由はいくつもあるといいます。大きいのは費用の問題です。通常の健診にかかる費用は1人当たり1万円前後です。一方、肺がんを調べるためのCT(コンピューター断層撮影装置)スキャンを使った検診にも1万円程度必要です。ほかの臓器や部位も検査をするとなれば、費用は膨れ上がってしまうのです。そこで著者は、健康保険組合や地方自治体などのがん検診を個人で利用するよう勧め、受ける際の注意点や心構え、がんになるリスクを減らす生活などを紹介しています。

■健康のリテラシーを高めよう

 日本には国民皆保険制度があり、医療費の自己負担が抑えられています。それが病気の予防・治療などへの意識の低さをもたらしているともいわれます。その例として、著者は日本人と米国人の健康相談の様子をモデルケースとして紹介します。

 日本人の場合:「先生、○○○という感じがして痛いのですが、私はどうすればよいのでしょうか?」
 アメリカ人の場合:「ドクター、私は○○○という痛みを感じていて、インターネットなどで調べたら、AとBとCという3つのオプションがあると分かった。専門的な医師であり、同時に日本の医療を知る立場で、どれがベストか教えてください」
(第6章 期待できる健康管理は、どうやってつくるか 204ページ)

 疲労や不眠、食欲不振なども、本当は痛みと同じくらい大切な身体のシグナルだと著者は指摘します。体調やコンディションにもっと敏感になり、自分の身体は自分で守るという意識が必要なのです。

 本書のタイトルはショッキングですが、会社の健康診断を否定しているわけではありません。日本人の健康に関するリテラシーの低さに注意を促し、自分自身で適宜必要な検診や予防を行うよう勧めているのです。健康な1年を過ごすために、ぜひ読んでおきたい一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひとこと 石橋広紀

 「会社の健康診断で身長を測るのは、なぜか分かりますか? 実は大人の伸長測定って、ほぼ無意味なんですよね……」。長年、企業で産業医として活躍した著者のこんな一言から、本書は生まれました。

 会社に勤め始めて毎年受けるようになった健康診断。項目はいろいろありますが、「なぜその検査が必要なのか」を考えたことはあるでしょうか。半世紀近く前に始まった日本の健診は、現代人が抱えるさまざまな健康問題に細かく対応しておらず、例えば多くの人が関心を持つ「がん検診」は自分で受けに行かねばなりません。

 自分の健康を守れるのは、自分だけです。働く人にとっての真の健康や元気のためのヒントを、医師がやさしい語り口調で教えてくれる一冊です。

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