日経BP総研マーケティング戦略研究所

近視は、環境因子と遺伝が関わって発症するのだが、環境が同じならば、両親とも近視の子どもは、片親だけ近視の子どもや両親とも近視でない子どもに比べて近視になりやすいことが分かっている。しかし米国の研究で、両親が近視であっても、1日2時間超外遊びをする子どもはほとんど外遊びをしない子どもに比べて、近視の発症率が3分の1以下に減っていたのだ[図2、注1]

[注1]Invest Opthalmol Vis Sch. 2007 Aug:4(8):3524,32)

図2 6~14歳の近視ではない子ども514人を1989年~2001年の12年間追跡調査し、親の近視の数別の屋外活動時間と近視発症率を分析した米国の研究。屋外活動時間が週14時間(1日2時間)を超える子は、両親とも近視でも近視になりにくい。
図3 オーストラリアの12歳児2367人を2003年~05年まで追跡調査し、屋外活動時間と勉強やモバイルコンピューターなどの近業作業別の近視発症リスクを算出。近業時間が長くても、屋外活動時間が長ければ(1日2.8時間以上)、近視のリスクは低かった。

ほかにも、勉強やパソコンやスマートフォンなどの近くの画面を見続けるなどの近くを見る作業(近業作業)の時間が長いと近視のリスクが高まるが、1日2.8時間以上屋外活動をしている児童は、近業作業の時間の長さに関わらず、近視リスクが抑制されていたという研究報告もある[図3、注2]

[注2]Ophtalmology.2008 Aug;115(8):1279-85

その一方で、外遊びの要素の一つとしての運動と近視の関係についての研究から、屋内活動は近視のリスクを減らす効果が少ないことも分かっている。こうしたことから、外遊びの要素の中で、太陽光が近視抑制に重要な働きをするのではないかと考えられるようになってきているわけだ。

図4 バイオレット・ライトは、紫外線の内側にある、可視光線で最も波長の短い光だ

そこで「バイオレット・ライト」に着目して研究を進めているのが、慶応大学医学部眼科教室の近視研究チーム。バイオレット・ライトは可視光線の中で最も波長の短い360~400ナノ(ナノは10億分の1)メートルの紫色の光だ。

紫の可視光線が近視の進行を抑える

図5 網膜と眼軸の長さが適切な目では、焦点が網膜上に結ぶ「正視」(左)となるが、眼軸が伸びすぎると焦点が網膜の手前で結ぶため、「近視」(右)となる

近視は目の「眼軸」が伸びることによって起こる。同眼科教室の近視研究チームは、バイオレット・ライトを通さないコンタクトレンズやメガネをかけている子どもは、バイオレット・ライトを通すレンズのものを使っている子どもより、統計的に有意に眼軸の伸びが長い、すなわち近視になりやすいということを見いだした[注3]

[注3]E Bio Medicine. 2017.Feb;15:210-219

そして、近視の実験モデルとして確立されているヒヨコを使った試験を行い、360~400ナノメートルのバイオレット・ライトを浴びたヒヨコの目では近視の進行が抑えられることを確認した。

図6 片目を近視誘導して近視化させたヒヨコを2群に分け、両目にバイオレット・ライトを当てた群と当てなかった群を比較すると、バイオレット・ライトを当てた群は近視誘導側の目の近視の進行が有意に抑えられていた。(データ:EBioMedicine. 2017 Feb;15:210-219.)

さらに、都内のオフィスや自動車の中、病院内、学校などの窓ガラス越しに光の波長別の照射度を測定したところ、窓を閉めているとバイオレット・ライトは入ってこないこと、窓を開けると多少は入ってくることも調査で確認した。蛍光灯やLEDライトなど現代生活で使う光には、バイオレット・ライトはほとんど含まれていなかったのだ。これは、目に悪い紫外線をカットするときに、隣接するバイオレット・ライトも一緒にカットされてしまうからだと考えられている。

こうしたことから、近視の予防研究を推進する医師らで構成される近視研究会では、バイオレット・ライトをしっかり浴びるために、1日2時間以上の外遊びや、室内では窓を開けて窓側に座ることなどを推奨している。

また、このバイオレット・ライト研究の成果をヒントに、近視対策商品を開発する企業も出てきている。

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食べる近視対策は「クロセチン」に期待