インスタ映え、「ひよこの目線」でいいね!もらおう
今年の流行語大賞になった「インスタ映え」。インスタグラムに投稿するための色鮮やかなフォトジェニックスイーツやナイトプールといった言葉も登場した。日ごろの食事やアイドルイベントなどを不定期に公開するだけで、華やかな画像とは全く無縁のおじさん記者(51)が女性インスタグラマーが集まるパーティーに参加し、盛り上がりを体験してみた。
撮影ブースは大にぎわい
12月10日の夕方。東京都港区表参道駅から近くのパーティー会場は主催者が呼びかけたピンクの洋服に身を包んだ女性であふれかえっていた。一応、ピンクのシャツを着てきた記者(51)だが、やはり場違い感を覚える。撮影ブースで楽しそうに写真をとっていた大学生3年の井上麗さん(21)と竹内悠華さん(20)に話を聞いた。2人ともインスタを始めて5年ほどで食べ物や旅行の写真をアップしている。井上さんは「知りたい情報を目で見てすぐ知ることができる」のが魅力という。
パーティーはポータルサイト運営のエキサイトとダイヤモンド社が書籍「自分もSNSもかわいすぎてツラい」(ダイヤモンド社)の発売を記念して開いた。恋愛や美容、ファッションといった情報を発信する女性向けウェブメディア「ローリエプレス」の初の著書で自分もSNSもかわいくなるテクニックを詰め込んだ本だ。パーティー会場も装飾からスイーツ、ドリンクまでとことん「インスタ映え」にこだわった。
「マカロンは顔を撮影するのが大事です」
会場内に撮影コーナーが多数あり、参加者たちが列を作って順番に撮影していた。私の場合、自分の写真は絵的に厳しい。モノを取ろうかと場内を回っているとピンク色のマカロンを飾ったタワーがあった。記者が引き気味にタワー全体を撮影していると、「マカロンは顔を撮影するのが大事です」と声がかかった。「撮影女子会」を主催し、フォトジェニックな空間を企画・プロデュースするMorning Labo(モーニングラボ、東京・渋谷)の中村朝紗子代表だ。この会場内の設営も中村さんの手によるものだ。
撮影したいのがマカロンなら近づく。ただ、マカロンは上から撮影すると平面的になる。「顔はクリームを挟んでいる横の部分です。正面からできるだけ寄っていらないものを省いてきます」。どうしてもできてしまう空間は花などの小物で埋めるといいそうだ。
中村さんは「写真撮影のコツはひよこの目線です」と話す。「ひ」は日差し、つまり光線のこと。影がない写真をとるために逆光で撮影するのが大事。「よ」は寄る。「こ」はこどもの目線。小さい子供がテーブルの端からのぞき込むような目線の低さだ。お皿に盛られたパスタを撮影する際など立体感が出て威力を発揮するという。教え通りに近寄ってマカロンを撮影する。なるほど、インパクトのある写真となった。
インスタ上級者になるとフィルターと呼ばれる加工をかけ、色調を統一したり、タイムラインに並ぶ色合いも計算し写真を順番に公開したりしているという。食べ物や出来事を野放図に投稿している自分が恥ずかしくなった。
ローリエプレスが組織する「ローリエガールズ」で大学3年のかすみさん(21)と大学4年のまなみさん(21)。2人とも化粧品や洋服のコーディネートを公開している。かすみさんは「ここ行ってみたいな、というワクワク感がステキ。普通に歩いているだけでもかわいいなと思ったら撮影し公開する。行動範囲が広がる」と話す。まなみさんは「かわいいものを撮ると自分のインスタもかわいくなるじゃないですか」と笑う。
ローリエプレスが10~20代の女性ユーザー203人を対象にしたインスタグラムに関する実態調査によると、84.2%が「インフルエンサーに影響を受け行動した経験がある」と回答した。インフルエンサーに影響を受けて買ったものはコスメやネイル等の美容関連が86.9%、洋服やファッションアイテムが54.5%と続く。若者の購買への影響度は見逃せなくなっている。実際に化粧品会社の広告宣伝もネットを強く意識している。コーセーや資生堂がSNSによる拡散を狙った販促をすすめている。
「インスタグラムはときめきの宝石箱」と中村さんは話す。心がときめいた瞬間を集め、友達からの反応で情報を再構築していく。「楽しかった、気持ちよかった思い出を見返して何度でも楽しめる。スルメイカ消費です」。かめばかむほど味が出る、スルメのような楽しみ方ができるという。スルメならまだほとんどの人はインスタをかみ始めたばかりだろう。利用法は広がるばかりだ。歌手の小林幸子さんが今月4日、都内で新曲のお披露目ライブの際、1万人のフォロワーを持つインスタグラマー100人がスマートフォンでライブを撮影し、100万人以上に生で配信した。来年も「インスタ発」の思いも寄らない商品がヒットするかもしれない。
(村野孝直)
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