ヘルスUP

日経Gooday 30+

「大人の発達障害」どう対処? 自己診断は禁物

日経Gooday

2018/1/22

これは精神科で診る病気全般にいえることですが、脳の形態や機能の問題がないかを調べるためにMRIやCTの検査を行うことがあっても、ほとんどの場合、それによって診断が確定できるということはありません。発達障害の場合、重視するのは問診です。発症に至った経過や症状を詳細にお聞きして、画像検査などの結果も踏まえて総合的に判断します。

発達障害は先天性のものなので、思春期以前、幼少期にさかのぼって、生活習慣や生活態度、行動を知ることが重要なポイントです。そのため、可能であれば小学校時代の通知表を持参してもらい、教師が書いた記録も見るようにしています。本人や家族への問診のほか、初診時は自己記入式のチェックリスト[注3]を用いることもあります。

――発達障害だと診断されたら、どのような治療が行われるのでしょうか。

社会生活に支障が生じるようなときは、投薬を行うこともあります。成人の場合、ADHDの症状を改善させる薬には、コンサータ(一般名:メチルフェニデート)とストラテラ(アトモキセチン)が認可されています(表)。患者さんの中には「世界が違って見える」と話す人がいるほど、劇的に効く場合があります。

この2つの薬が作用する仕組みは違いますが、いずれも集中力を上げたり、衝動性を抑えたりする目的で使われます。ただし効き方は少々異なります。コンサータは効果が表れるのが早く、1日1回、朝の服用で最大12時間の効果が得られます。反対に、ストラテラは、コンサータほどの即効性はありませんが、長期的に使うことで、効果を継続させることができる薬です。

一方、ASDには薬による治療法がありません。ASDには、グループでディスカッションやロールプレイングをするなど、心理社会的療法が有効です。

――薬には副作用がありますか。薬をやめるタイミングはどう見極めるのですか。

副作用がまったくないというわけではありませんが、使い続けても正しく使用していれば、副作用は少なく安全性の高い薬です。薬を使わなくていい状況になったときにやめるという使い方でよいと思います。例を挙げると、会社勤めをしていた事務職のBさんは、結婚して専業主婦になり、会社でさまざまな人と仕事上のコミュニケーションを取る必要がなくなったので、薬の使用を中止しました。

また、営業職のCさんは、重要なプロジェクトに携わり、うっかりミスが許されない立場に立ったとき、注意力・集中力を高めるために投薬を行っています。

――薬以外の治療法、心理社会的療法とはどのような内容なのですか。

当院の発達障害の専門外来では、グループ療法に力を入れ、対人関係を構築したり、社会性を身につけるための訓練を行っています。何か頼まれたときのうまい断り方や、職場で休憩時間に雑談する話題、どうしたらミスを防げるかなど、身近な事例を取り上げ、意見を出し合って解決法を全員で考えます。

例えば、誘いを断るにしても、直接的に「あなたとは行きたくない」とは言わず、「せっかくだけど、仕事が忙しくて行けない」のように、相手に不快感を与えずに自分の意思を伝えるコミュニケーション法を実践で学びます。ケアレスミスが多ければ、ミスをした内容をメモしてデスクなどに貼っておく、上司からの指示は必ず復唱するなど、さりげない対策が周囲との不和を減らすことにつながることなどを理解していきます。

グループ療法は10人程度で、1回3時間ほどのセッションを月2回、半年続けます。他の参加者と接して問題に取り組み、経験を重ねていくことで、その後の社会生活に役立つよう指導します。参加された患者さんは、「みんなの前で話してみて、頭の中を整理できた」「悩んでいるのは私だけじゃないと知って安心した」といった感想を語り、終了後もOB会として集まるグループもあるようです。多くの人は勤務の合間に通っていますが、離職中の人は、グループ療法を経て就労支援プログラムに移行することもあります。

■発達障害という多様性を受け入れる職場づくりを

――発達障害のある同僚に対して、周りはどのように接していけばいいのでしょうか。

まずは職場の管理者が、発達障害を抱えるスタッフ自身や周囲の人間が、どんなことに困っているかを把握し、力になろうとする姿勢を見せることが大切です。最近は、管理者や総務部、健康管理部門などの担当者が問題に気づいて、何に配慮すればいいかを知るために、本人と一緒に医療機関を受診することも増えてきました。発達障害であることを職場で公表して対応するかどうかは状況によりますが、上長が配慮しようという姿勢を示せば、部下も自然と、発達障害の特性に対して理解を深めていくのではないでしょうか。

経営者的な立場の方にぜひ知っておいてほしいのは、発達障害のある人には知的能力の高い人が多いことです。ASDの人の中には、驚異的に記憶力が良いなど、天才的な能力・ひらめきがある人がかなり存在します。ADHDの人は、特定のことに一点集中して頑張る特性から、閉塞した状況を一気に変えてしまうような突破力があります。

ASDの人もADHDの人も、職場になじまないこともあるでしょうが、企業にとって財産となる可能性も秘めています。彼らの能力をうまく生かしてほしいですね。

[注3] ASDには50項目からなる自閉症スペクトラム指数(AQ)、ADHDは66項目のカーズ(CAARS)というチェックシートがある。いずれも患者本人が記入するもので、医師の診断の参考にされる。

岩波明さん
昭和大学附属烏山病院病院長・医学部精神医学講座主任教授。東京大学医学部卒業。東京都立松沢病院、東京大学医学部精神医学教室助教授などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。2015年から昭和大学附属烏山病院病院長を兼任。同院の発達障害外来・ADHD外来のほか、昭和大学病院附属東病院精神神経科でも診療を行う。著書に『発達障害』(文藝春秋)など。

(ライター 田中美香)

[日経Gooday 2017年11月22日付記事を再構成]

医療・健康に関する確かな情報をお届けする有料会員制WEBマガジン!

『日経Gooday』(日本経済新聞社、日経BP社)は、医療・健康に関する確かな情報を「WEBマガジン」でお届けするほか、電話1本で体の不安にお答えする「電話相談24」や信頼できる名医・専門家をご紹介するサービス「ベストドクターズ(R)」も提供。無料でお読みいただける記事やコラムもたくさんご用意しております!ぜひ、お気軽にサイトにお越しください。


ヘルスUP 新着記事

ALL CHANNEL