和紙再興、山梨から 著名デザイナーと世界めざす
大直の和紙ブランド「SIWA」(下)
山梨県の紙メーカー、大直の一瀬美教社長
知名度のあるデザイナーとコラボレーションする企業は多いが、必ずしも事業がうまくいくとは限らないようだ。うまくいくケースといかないケースの間には、どんな違いがあるのか。プロダクトデザイナーの深沢直人氏とタッグを組み、和紙の概念を覆す「SIWA」事業を立ち上げることに成功した山梨県の紙メーカー、大直(おおなお)の一瀬美教社長に、深沢氏起用の狙いと事業の原点を聞いた。
男性から先に人気が出た
――SIWAの国内取扱店は北海道から九州まで150店舗以上。海外との取引も広がっているようですね。
「海外に関しては2009年1月、『インテリア業界のパリコレ』と呼ばれる、パリのメゾン・エ・オブジェ展に出品したのが最初でした。国によって好まれる製品も違うので、ニーズをつかむのに苦労しましたが、現在、SIWAに関しては米国、イタリア、ドイツ、スイスなど世界20カ国以上と取引しています」
「ヨーロッパの方たちはじっくりと相手を見ます。展示会に出しても、1年目はあまり声をかけない。3年くらい続けて出して、ようやく声をかけていただける。1回きりの出展だと思われてしまうと信用されません。継続して出してようやく取引してもらえるということがだんだんとわかってきました」
――女性ファンが多いのでしょうか?
「いいえ、最初に反応してくださったのは男性です。これは日本でも同じことで、商品を発表した時点では、お客さんの8割から9割が男性だったんです。むしろ、そこからいかにして女性層に広げていくかで、娘(SIWA事業の責任者で三女の一瀬愛さん)は試行錯誤したんじゃないでしょうか」
「商品」というよりも「カテゴリー」だと思った
――SIWAを立ち上げる際、なぜ、外部のデザイナーを起用しようと思ったのですか?
「社内だけで考えていると、どうしても今までの考え方ややり方にとらわれてしまう。もう少し離れたところから和紙を眺めたら、全く違う発想が出てくるのではないかと期待しました。それと海外展開できるものにしたかった」
「実は学生時代にマーケティングを学び、その後、1年間だけ小さな広告代理店に勤務していたことがあります。山梨に戻ってからも、IDEO(米カリフォルニアに本拠を構えるデザインコンサルティング会社)に関する本などを読んでいましたから、地元で深沢さんの講演会が開かれた際にも興味を持って聞きに行ったんです。モノというよりも、事業そのものをデザインしていく考え方にひかれました」
「SIWAに関してはいわゆる『和風』をうたうのではなく、もっと生活の中に溶け込んで日常的に使える商品を作りたかった。過去に和紙でバッグを作った人はいるかもしれませんが、深沢さんの提案はそれとは全く違っていました。モノではない、新しいカテゴリーの提案だと感じました」
「展示会のブースづくりからカタログ、見せ方に関する部分はすべてお任せしました。熱の入り方もすごかった。やっているうちに、本人がどんどん乗ってきてくれました。実は私が積極的に関与したのは最初に商品を発表した展示会の前までで、当日はほとんどブースにも近づかなかった。以降は事業部の責任者である娘に任せています」