F1の重鎮も大興奮 「ドリフトはJUDOになれる」
日本発のモータースポーツといわれ、世界的モータースポーツになり始めている「ドリフト」。最近ではF1(フォーミュラ1)やWRC(世界ラリー選手権)を統括している国際自動車連盟(FIA)からも注目され、2017年9月30日、10月1日にはFIAが承認した初めての世界大会「FIAインターコンチネンタル・ドリフティング・カップ」が東京・お台場で開催。会場には元フェラーリF1の監督であり、現FIA会長のジャン・トッド氏の姿もあった。同時期に開催されたF1マレーシアグランプリ行きの予定を変更しての視察だけに、FIAのドリフト競技に対する関心の高さが感じられる。はたしてモータースポーツとしてのドリフトの可能性は?
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「本当にエキサイティング!」
小沢コージ(以下、小沢) 今日はありがとうございます。まずはお台場でドリフトを見た感想を。
ジャン・トッド会長(以下、JT) 今回初めて自分の目でドリフトを見ましたが、本当にエキサイティング! 見るからに派手でスペクタクルでアクションもあって、観客に非常に喜ばれるだろうと感じました。
小沢 将来的な可能性はどうでしょう?
JT 現在はパワフルなエンジンを使っていますが、将来的にはハイブリッドや電気自動車(EV)テクノロジーも加えていくといいのではないかと思います。それから注目はタイヤです。非常にたくさんのブランドが集まっているのに驚きましたし、理由が分かりました。これらを踏まえて今後のプランを考えていこうと思います。
小沢 トッドさんご自身が直接日本に視察に来られたことに何より驚きましたが、その一番の動機は何でしょうか。
JT 今回が日本自動車連盟(JAF)と共同開催した初めての国際格式FIAドリフトイベントということもありますが、同時に世界150カ国の自動車連盟が集まる会議が日本でありまして、週末にこのすばらしいイベントがあるというので滞在を延ばしたんです。
小沢 最初にドリフトという競技を知ったのはいつごろですか。
JT ドリフトという言葉は前から知っていましたが、日本発のモータースポーツとは知りませんでした。知ったのは2年前ぐらいでしょうか。それからもっとドリフトというものを勉強しようと、FIA内にワーキンググループを結成したんです。そして数カ月前に、国際イベントとして最終戦をお台場で開催しようと決めました。
最も簡単に開催できるモータースポーツ
小沢 そんなに最近ですか! しかしFIAといえばF1やWRCを主催することで知られていますが、最近では電気自動車レースのフォーミュラEに力を入れています。ドリフトを含め、今後のFIAは変わっていくんでしょうか?
JT グラスルート(草の根)からモータースポーツを始めるのが私たちのやり方です。F1やWRCやカートもそうですし、今もたくさんの国がモータースポーツをやろうとしていますが、このドリフト競技ほどスペースを必要としない競技はありません。場所、レイアウトだけでなく、安全性も非常に重要であり、その視点からみてもドリフトは世界中で比較的容易に開催できるイベントではあるのです。草の根から始まるモータースポーツそのものだと思います。
小沢 確かにスペースを使わない、シンプルなモータースポーツイベントとして見るとドリフトはものすごい可能性がありますよね。ちなみに最近はF1の観客動員数が減っているという話がありますが、そこにもFIAの危機感はあるのですか?
F1の観客は増えています、新聞と同じように
JT そこはメンタリティーの違いだと思います。昔はサーキットかテレビでしか見られなかったF1が、今ではiPhoneやiPadを使って簡単に見られるわけですよ。それがリスクとなるわけです。若い人はこうやって人と人とが直接話すこと以上に、1人でテレビゲームだったり、ドライビングシミュレーターだったり、サッカーだったり、SNSを通じてどんどんつながっていきます。何でも画面を通して見るわけですよ。確かにテレビの視聴者は減ったかもしれませんが、代わりにいろんなメディアがあるので逆にファンは増えているのです。ですからそういう人たちのためにバリエーションを提供しようとしているのです。
小沢 それがフォーミュラEであり、ドリフトなんだと。
JT そうです。例えばあなたたちメディアもそうだと思いますが、新聞を買う人たちは少なくなりました。でも情報は持っているわけです。新聞は読まなくなったかもしれませんが、違うカタチで人々は新聞を読んでいるんです。
小沢 ということはつまりモータースポーツファンは逆に増えているんだと。
JT はい、その通りです。
小沢 先日有名な「グランツーリスモ」というゲームの中で、FIA格式のレースができるようになったと聞きました。要するにバーチャル空間の中でFIAライセンスが取れて、レースもできるのだと。すごい時代になったと思いましたが、それと同じようにドリフトも新しいモータースポーツのカタチとして認められるということですね。
JT そうです。先日ラスベガスで初めてコンピューターによるフォーミュラEのバーチャルレースを開催しましたが、非常に盛り上がりました。そういう時代が到来しているのです。
小沢 私はドリフトが日本で生まれ、世界的に広まったJUDOみたいなモータースポーツになってほしいと思っていますが、その可能性はどうでしょうか?
JT なるでしょう、間違いなく。日本は昔から非常に面白いカルチャーを持っていて、私も大好きです。独自性と伝統があり、それが見事にイノベーションと一緒になっている。非常に高い可能性があると思っています。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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