子育て女性、成長求め転職 「職場の配慮」が逆効果
小さな子どもを持つ女性の転職が目立つようになってきた。やりがいを感じられる仕事をしたい、経験や知識を生かしキャリアを積み続けたいという思いからだ。ママ社員を戦略的に採用する企業も出てきた。
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リクルートキャリア、女性向けにセミナー開催
リクルートキャリアが9月に都内で開いた女性向けセミナーには転職やキャリアを考える約100人が集まった。「子育てしながら管理職として職場でどう振る舞うか」「子育て中というだけで業務範囲を狭められてしまう。もっと自由に働きたい」。座談会では、仕事と子育ての両立に悩む声が多く出た。
都内在住で大手メーカーに勤める女性(38)は財務部門が長く決算の中心メンバーだ。ただ定型的な仕事も多く「日系企業は縦割り志向。業務は限定的で広がりがない」とキャリア形成の不安を語る。得意の英語と財務の知識を強みに、10歳と3歳の子どもを抱えながら外資系メーカーへの転職に向け活動中だ。
子育て中でも転職で働く環境を変えたいと考える女性は多い。リクルートキャリアが1日に発表した調査では、子どもがいる女性求職者の転職理由(複数回答)は「自身の成長やキャリアアップのため」が41.2%で回答数の多さでは3位。子がいる男性を6.9ポイント上回り、女性にキャリア意識を持ち転職を考えている人が多いことがわかる。
背景には「男性と比べキャリアアップしにくいという日系企業特有の構造がある」と法政大学キャリアデザイン学部の坂爪洋美教授は分析する。「子育て女性は大変だからいいよ」と職場では過剰な配慮意識が働きやすい。坂爪教授は「配慮は言い訳で、個人によって違う働く意欲を確認し適切に仕事を与えることを放棄している」という。
バイリンガルや専門職の人材紹介業のロバート・ウォルターズ・ジャパン(東京・渋谷)には「育児休業からの復職後1~2年は配慮された環境で過ごすが、次第に配慮を窮屈に感じ、相談にくる女性が増えている」という。
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職場で力を発揮したいという意欲をそがれ、転職に活路を見いだすママ社員の受け皿となるのはどんな会社か。
「ママになったあなたにこそ、輝いてほしい。」。こんなコピーで求人広告を出したのは化粧品・健康食品メーカーのアンファー(同・千代田)だ。ママを積極採用するきっかけは、当時のブランド戦略部部長の女性が育休から復職したこと。「帰宅時間が決まっているので会議や相談は効率的に。部署メンバーも時間管理の意識が変わり、業務にメリハリがついた」と同社。
その部長は休業中に温めていた商品企画を復職後に実現。「できる仕事と会社にいる時間の長さは関係ない」「子育て女性の働き方は効率的」との考えが浸透した。広告には250人が応募、数人を採用した。中途でも実績によっては半年間で課長職に昇格する場合もあるという。
大手IT(情報技術)コンサルのアクセンチュアは2007年から15年までで子を持つ女性社員は6倍になった。「仕事で求められることは全員同じ。ただ立場や環境に違いがある」(同社ディレクターの嘉者熊弥生さん)として、キャリア研修、成長するきっかけが平等か確認する後見人制度、管理職の「無意識の偏見」を改める研修など細やかな環境整備で定着を図る。
前の会社の優遇に肩身狭く カジーの里田恵梨子さん
仕事と子育てを両立しやすい会社に移りキャリアを伸ばす人もいる。家事代行のカジー(東京・千代田)に入社した里田恵梨子さん(35)は5年間勤めた屋外広告の企画制作会社を辞め、16年11月から広報担当として働く。
前の広告会社では育休復職後に広報部門の設立を任され、営業と兼務した。子どもを保育園に送り届けた後では朝の会議に間に合わず「子育て中の女性は自分一人で、なぜ優遇するのかという空気。肩身が狭かった」。帰宅後は家事に追われ「1日中保育園で待たせたのに娘を構ってあげられない。誰のために働くのか」という思いが膨らんだ。転職へ強く背中を押したのは長女(5)の「ママ、仕事を辞めて」との言葉だ。
転職先で重視したのは家族との時間をしっかり取れ、キャリアを伸ばせること。家事代行は共働き世帯が家族とゆっくり過ごす時間を増やせるサービスであり「使命を感じる」。入社後の実績が評価されて年収も上がった。朝9時ごろ出社し夕方には長女が待つ保育園へ向かう。長女は早い帰宅に喜び、働く母を認めるようになった。
有効求人倍率がバブル期を超え、女性活躍推進法の下で女性は転職を実現しやすい。未経験者の求人も急増している。ただ「自分のキャリアを曲げてまで転職する必要はない。流されないで」と坂爪教授は警鐘を鳴らす。
環境の変化に期待する転職は後悔や失敗に終わりやすい。キャリアを伸ばすのに必要なのは何かを見極めることが大切だ。「抱えている不安や不満は今の職場で解決できるかもしれない。まずは上司に思いを伝えてほしい」と坂爪教授は説く。
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企業は個人別に調整を ~取材を終えて~
中途入社の自身を振り返ってみると、会社を変わるのは事務手続きだけでも結構な労力だった。子ども2人がいる今、目先のことで手いっぱいになりがち。「こんな忙しい時期にどうして転職?」。素朴な疑問だった。
働く母200人を紹介するサイト「パワーママプロジェクト」の運営メンバーで、未経験のIT企業に39歳で飛び込んだ3児の母、佐藤裕美さんは話す。「働くママは悲観的に語られがちだが実像はちがう。好きな仕事と愛する子どもの両方を活力にできる人」。「時短勤務制度など子育て女性対象の働く環境の整備は大体済んでいる」とリクルートキャリア女性リーダー採用・活躍支援チームの中野裕子さんはいう。
女性は今の職場に意欲や思いを伝えよう。企業は紋切り型の施策から、一人ひとりにあった働き方の調整を試みてはどうか。子育て女性ならではの活力が職場でもっと生きるはずだ。
(杉山麻衣子)
[日本経済新聞朝刊2017年12月4日付]
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