
さて、茶餐廳の数ある定番メニューの中でも、「これはすごく手間がかかるんだよ」と張さんが教えてくれたものがある。香港式ミルクティーだ。濃い紅茶に、香港でかつて希少だった牛乳の代わりに同地でポピュラーになったエバミルク(無糖練乳)を合わせた飲み物だ。
張さんが身振り手振りで教えてくれたものの、「手間がかかる理由」がよく分からなかったのだが、ユーチューブの動画を見て合点がいった。一度煮出した紅茶を何度も濾していたからだ。店によってやり方は異なるのだろうが、この香港式ミルクティー。店同士が味を競う大会まであり、香港人の並々ならぬこだわりがある飲み物なのだ。

「香港 贊記茶餐廳」のミルクティーの中国語メニュー名は、直訳すると「香港式ストッキングミルクティー」という意味だった。不思議に思っていると、「ストッキングで茶葉を濾すんです。それが香港式」と張さんが説明してくれた。
思い出したのが、「香港式ミルクティーは店によって色々な工夫があるんです」という池上さんの話だ。ストッキングは、ある有名な老舗が茶こしの代わりに使い始め他店に広まったものらしい。細かな茶葉がうまく除かれる上、エバミルクとムラなく混ざるようになり滑らかさが増しおいしくなるのだそう。

「香港 贊記茶餐廳」は来年、吉祥寺に新店のオープンを予定している。飯田橋店には数多くの食事メニューがあるが、「今度の店は、茶餐廳が出来始めた頃の、喫茶メニューだけの『オールドスタイル』の店にしようと思っているんです」と張さんは言う。そして、「このメニューも冰室時代からある定番メニューですよ」と指差したのは「紅豆冰(ホンダウピン)」と呼ばれる飲み物。粒あんとエバミルクやココナツミルクなど(店によって異なる)を合わせ、ザクザクとした氷を入れたメニューだ。
「香港 贊記茶餐廳」だけではない。「香港 華記茶餐廳」も「来年、さらに東京・大阪などに次々と出店を考えています」と同店総料理長の羅澤文(ラ・タクブン)さんは言う。どうやら、これから日本でもポーローパオをほおばりながら香港式ミルクティーでくつろぐ人が増えるのかもしれない。
(フリーライター メレンダ千春)