お笑い芸人に「仲良しコンビ」が増えているワケ
お笑い芸人に「仲良しコンビ」が増えている。これまで、さまぁ~ずやタカアンドトシが代表格だったが、その2組に限らず、くりぃむしちゅーやバナナマン、オードリーといったMCクラスの芸人は、関係性が良好なコンビばかり。ほかにも、博多華丸・大吉やサンドウィッチマンらベテランから、カミナリ、霜降り明星といったニューフェイスまで、視聴者が「仲がいい」と認識できるコンビが増えた。バラエティー番組の作り方が変わり、お笑い芸人にチームワークや安心感が求められるようになった時代の変化を反映している。

『アメトーーク!』(テレビ朝日系)では、『相方大好き芸人』がほぼ定番化し、『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)では、助け合いながらネタを披露する若手たちの姿が見られる。
旬な芸人が多数出演する『ネタパレ』の総合演出を務め、『今夜はナゾトレ』なども担当するフジテレビの木月洋介氏は、「率直に、仲のいいコンビが増えているなとは感じます。『ネタパレ』にも何度か出演してもらっているANZEN漫才やフースーヤは、本当に仲がいいと思いますよ」と話す。
なぜ仲良しコンビが目立つのか。1つは、芸人が今置かれている状況に起因する。近年は芸人の数が飽和状態の上、ネタやコント番組が少なく、若い頃に売れてポジションを確立するのは極めて難しい。「世に出られない時期が何年も続くのは、生活も苦しかったり、本当に大変なはずなんです。くりぃむしちゅーもバナナマンも、10年ぐらいの下積み時代があったと思います。仲がいいからこそ、解散せずにその時代を乗り越えられたと言えるのでは」(木月氏、以下同)。
ネタブーム失速で芸人の役割に変化
もう1つは、バラエティー界の流れにある。1990年代後半から2000年代前半は、ネタ・コント番組の全盛期。その後、『銭形金太郎』や『リンカーン』など、複数の若手芸人がにぎやかに出演する番組が出てきて、くりぃむしちゅーやバナナマンが台頭した。00年代後半からは『アメトーーク!』(テレ朝系)や『しゃべくり007』(日テレ系)などトーク番組が盛り上がり、同時に、情報系番組が多数登場し始めた。この頃、ネタブームは失速しており、バラエティーにおける芸人の役割に変化が起きる。
10年頃を境に、司会のスキルと、芸人としての実力の、両方を求められるようになったのだ。そこで、様々な状況での対応力に優れるくりぃむしちゅーやバナナマンらに白羽の矢が立つように。「芸人さんがホスト側の番組が増えましたよね。進行をしつつ、ゲストを立てて、メンバーの様子を見ながら話を振り、やり取りを笑いに変える。芸人さんに求める役割が増えたと思います。それをこなす中心人物が仲のいいコンビなら、チームワークがうまくいくので、非常に安心感があります」

木月氏は『今夜はナゾトレ』で16年からくりぃむしちゅーと仕事をするようになり、その仲の良さに初めは驚いたという。「打ち合わせの時間になってもなかなか部屋から出てきてくれなくて、何かと思ったら、マネジャーさんが『2人の会話が盛り上がりすぎているから待ってくれ』と(笑)。でも、その関係性がやっぱりコンビ芸につながっています」。彼らはタカアンドトシと同様、今もコンビで1つの楽屋に入っているという。
ぶっちゃけトークで素の姿が明らかに
時代の変化も関係していそうだ。スマートフォンの普及率が15年には70%を超え、SNSの利用も増えた。ツイッターを例にとると、12年に15.7%だった利用率は、16年は27.5%に上昇している(※1)。ダウンタウンの松本人志がツイッターを始めたのが13年。「うちのゴリラです」と相方の浜田雅功の写真を公開したツイートが話題になった。現在のフォロワー数は510万人超。たびたび芸人仲間との和やかな写真をアップし、ファンを喜ばせている。
SNSで有名人のプライベートな姿を垣間見られるようになると、『解禁! 暴露ナイト』など、様々なタイプのぶっちゃけトークが登場。「ギャラから過去のことまで、どんどん素の部分が明かされましたよね。そうなると、『コンビの関係性は本当はどうなの?』という目線になってきて、実際に仲がいいとほっとするのでしょう。安心して見ていられるコンビに支持が集まる傾向はあると思います」。『ダウンタウンなう』(フジ系)や、『博多華丸のもらい酒みなと旅2』(テレ東)のような、酒を飲んでの本音トークで、相方愛にあふれる発言が出るのも好まれる。
さらに言えば、お笑いの世界にもブロマンス(※2)的なものへの需要がある。オードリーの漫才で、「本気で嫌だったらお前と漫才やってない」と言って笑い合う所があるが、「『笑っていいとも!』時代に、若林さんに『本当は春日のことが大好きでしょ』みたいなファンレターがすごい届いたんですよ。『BL(ボーイズラブ)』とか『腐女子』などのワードが普通に使われるようになった今、そんな見方をする傾向は、強くなってきている気はします」。
さらに今は、人気の出るタイプが自虐キャラやいじられキャラが多い。「人をおとしめるような笑いは好かれないですね。ANZEN漫才のみやぞんのように、やってる側が笑われるような、優しい雰囲気、多幸感のある笑いがいまは求められているんだと思います」
※1 出典:総務省「平成29年版 情報通信白書」
※2 性的関係のない親しい男性同士の関係を指す
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2017年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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