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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測しているリブロ汐留シオサイト店だ。10月初めに訪れたときはロングセラーが上位に並んで変化に乏しかったが、今回は生きのよさそうな新刊がランキング上位に並ぶ。中でも抜群の売れ行きなのが、世界有数のスポーツブランドを立ち上げた創業者のみずみずしいストーリーだ。

若き日の感情、鮮明に回顧

その本はフィル・ナイト『SHOE DOG(シュードッグ)』(大田黒奉之訳、東洋経済新報社)。著者はスポーツブランド、ナイキの創業者その人で、ビジネスを始めると決意したその日から上場するまでを、自らの筆で振り返った一冊だ。「シュードッグ」とは靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身をささげる人間のことだ。

本は24歳のある朝の描写から始まる。1962年のことだ。フィルはその日、家族の誰よりも早く起きて戸外へランニングに出る。故郷を離れて7年、久しぶりに戻った実家で感じた違和感。自分は何者で、何をすればいいのか。オレゴンの美しい風景に包まれて走りながら、主人公は己のこれからについて考えをめぐらし始める。「私は世界に足跡を残したかった。/私は勝ちたかった。/いや、そうじゃない。とにかく負けたくなかったのだ。/そして閃(ひらめ)いた。……私は自分の人生もスポーツのようでありたいと思った」。若き日の自分の感情や思いを生々しく呼び覚まし、書き留めたところが本書の持ち味だ。80歳に手が届く成功者の筆とは思えない筆致に共感がわく。

このときのひらめきに導かれて、日本のシューズを米国で売るという「馬鹿げたアイディア」の実現に向けて動き出す。『ライ麦畑でつかまえて』と『裸のランチ』という2冊の小説を片手に旅立ったバックパッカーのような世界旅行。その途中で日本を訪れてオニツカタイガーに出向き、まだ設立もしていない会社名を名乗って、米国西部13州での販売権を勝ちとる。

節目彩る日本企業とのつながり

しかし、苦闘はそこから始まる。創業期は会計会社の仕事を週6日こなしながらの副業ビジネス。たった1社の靴の輸入販売だけでは、会社の成長はままならず、売り上げを伸ばしても運転資金をさらに借り入れる自転車操業の日々が続く。販売権をめぐるオニツカとの対立。その果てに日商岩井の協力を得て、自社のシューズブランド「ナイキ」を立ち上げる。こうしたナイキと日本の深いつながりも、日本の読者には興味深いだろう。当時米国の若者に流行した禅をはじめとした東洋思想に根ざした発想や考え方も、随所で著者の行動の規範になっており、1960年代米国の時代精神を体現した物語としてもおもしろく読める。

「先行販売の対象書店として周辺書店より早く入荷したので、初速がすごかった。その勢いが一般販売開始後も続いている」と店長の三浦健さん。ナイキに思い入れのある40代以上が中心客層だそうだ。

広告系の新刊に勢い

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)チームの一体感を高める“社内運動会”の仕掛け米司隆明著(クロスメディア・パブリッシング)
(2)SHOE DOGフィル・ナイト著(東洋経済新報社)
(3)友情山中伸弥、平尾誠二・恵子著(講談社)
(4)己を、奮い立たせる言葉。岸勇希著(幻冬舎)
(5)新しい分かり方 佐藤雅彦著(中央公論新社)

(リブロ汐留シオサイト店、2017年10月30日~11月5日)

『SHOE DOG』は2位。1位が著者・版元によるまとめ買いによるランクインなので、店頭の売り上げでは1位だ。3位にはラグビー平尾氏の思い出を語る話題の本。前回の紀伊国屋書店大手町ビル店でも上位だった本で、立地を問わずよく売れている。4位は幻冬舎と経済ニュースアプリ「ニューズピックス」がコラボしたビジネス書シリーズの最新刊。今度は広告でコミュニケーションデザインという概念を提唱した元電通の広告マンによる思考法の本だ。5位も広告系の筆者の本。CMディレクターとして培った「分かり方・伝え方」について考えている。久々に上位に新顔が並び、店頭が活気づいている。

(水柿武志)

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