360度動画で体感 訪ねたい文化財カフェ12選
ひとつとして同じものはないノスタルジックな空間。
特別な時間を過ごせる文化財カフェをランキングした。
あの頃へタイムスリップ
文化財は想像力を膨らませてくれる場所。2000年以降、カフェなどが入る事例が増えてきた。カフェならタイムスリップしたような感覚をじっくり味わえる。
東日本の1位となった明日館は巨匠、フランク・ロイド・ライトの作品。こんな身近な場所にほぼ完全な姿で残っていることに驚く。一杯のコーヒーを飲みながらそっと目を閉じれば、100年前にここで学んだ子どもたちの声が聞こえてきそうだ。西の1位、フランソア喫茶室は京都の近代を見つめ続けてきた。建物は小さくてもその存在感に圧倒される。
文化財カフェは各地の豪商が建てた建築物が多く、数の違いはあっても全国に点在するのが魅力だ。ランクインした12のカフェのうち東京都内にあるのは1位だけ。文化財カフェは全国各地にあるので、旅行の際には調べておきたい。歴史への理解が深まり、旅の満足度は間違いなく高まるはずだ。
中世ヨーロッパの趣にじむ(京都市)
柳と桜が美しい高瀬川沿いにある、中世ヨーロッパを思わせる重厚な建物。「店に一歩入った瞬間から流れている空気が変わる」(中村あゆみさん)
天井にあるバロック様式のドームとステンドグラス、古風なテーブルや椅子が作り出す、タイムスリップしたような不思議な世界。主張しすぎないクラシックのBGM、ウエートレスの制服と動き、「すべてが美しい建築を彩るようで心地いい」(竹内厚さん)。
創業者、立野正一が芸術家の集まるサロンとして開業。画家の藤田嗣治らも常連客という、純喫茶の文化が息づく「古き良き京都の喫茶店」(音喜多孝夫さん)だ。
夜遅くまで営業しており「夕食後のデザートやコーヒーに立ち寄るのもいい」(山田祐子さん)。
(1)阪急河原町駅から徒歩3分(2)1934年(3)10~23時(4)075・351・4042
近代建築の空間を再演出(大阪市)
大阪府立中之島図書館は「壮麗な空間を構成した貴重な明治期の近代建築」(五十嵐さん)。2016年開業のカフェは図書館の書架に見立てた中央のキッチンが斬新で、「今の時代に合った、見事な近代建築の空間再演出」(竹内さん)。国内ではまだ珍しいデンマークのオープンサンド「スモーブロー」は「見た目の美しさ、素材選び、本格的なおいしさで百点満点」(川口さん)と評価が高い。
(1)地下鉄淀屋橋駅から徒歩4分(2)1922年(3)9時~21時(4)06・6222・8719
かつて金庫だった一室に(大阪市)
市街地にたたずむ古そうな小さなビル。「ちょっと勇気が必要」(富本さん)な薄暗い階段を下りると、かつて金庫だった一室がある。テーブル席はなく、長いカウンターが1つだけ。黄みがかった照明の下、渋いマスターがコーヒーをいれる姿は「映画のワンシーンのよう」(音喜多さん)。
(1)地下鉄淀屋橋駅から徒歩6分(2)1927年(3)10時~19時(土日)(4)06・6232・3616
ベルサイユ宮殿の風情(京都市)
実業家、村井吉兵衛が来賓をもてなすための別邸として建てた。宿泊客リストには伊藤博文ら明治の重鎮が名を連ねる。意匠の異なる部屋を備え、豪華で優美な内装は「ベルサイユ宮殿のような風情」(江沢香織さん)。アフタヌーンティーが人気で「レトロ空間でぜいたくな時間を」(大西貴史さん)。
(1)阪急河原町駅から徒歩15分(2)1909年(3)11時~19時半(4)075・561・0001
革張りの椅子が残る(長崎県島原市)
大正時代に建てられた理髪店を、地元商店街の努力で再生した。「水色の外観がかわいらしい。理髪店時代の革張りの椅子や鏡がインテリアになっていて面白い」(中村さん)。空間もさることながら、「注目したいのがミルクセーキ」(高橋さん)で、「美容室という当たり前で懐かしい場所でくつろいだ時間を過ごしたい」(大西さん)。
(1)島原鉄道島原駅から徒歩5分(2)1923年(3)10時半~18時(4)0957・64・6057
昭和レトロな西洋建築(金沢市)
観光名所、ひがし茶屋街から徒歩圏にある「昭和レトロな西洋建築が目を引く建物」(中村さん)。輸入雑貨を扱う店として建てられ、ギャラリーとカフェが入居する。右から左に表記した「三田商店」というかつての店名が歴史を感じさせる。「和のイメージがある金沢だが、ステンドグラスのあるクラシックモダンな洋館建築を楽しめる意外性がいい」(高橋さん)。
(1)JR金沢駅から徒歩20分(2)1930年(3)10~22時(4)076・264・4115
ライト設計のデザイン体感(東京都豊島区)
都心のターミナル駅の目と鼻の先にあるとは思えない、静寂に満ちた空間は独自の教育理念を追い求めた自由学園の歴史そのもの。日本の建築史に大きな足跡を残したフランク・ロイド・ライトが設計したことでも知られる。
関東大震災や東京大空襲による焼失も奇跡的に免れた建物は「保存状態がよく、密度の高い細部のデザインが美しい」(五十嵐太郎さん)。直線を効果的に用い、入り口付近を意図的に狭くすることで中の空間を広く見せるなど、ライトらしさが随所に見られる「建築、デザイン好きの聖地」(高橋俊宏さん)。家具や照明などからも「シンプルで力強いライトのデザインの魅力を体感できる」(川口葉子さん)。
中央にあるホールは、見学コース(有料)のカフェとして使われている。コーヒーと焼き菓子など最小限のメニューだが「効率性とは正反対なぜいたくな造りの中で過ごす時間が心地いい」(富本一幸さん)。喫茶付き見学は大人600円。
(1)JR池袋駅から徒歩5分(2)1921年(3)10~16時(4、5日は17時まで)(4)03・3971・7535
豪華列車のような空間(神奈川県箱根町)
明治から戦前の日本を代表するクラシックホテルは「外国人向けに造られ、独特な和風の再解釈が興味深い建築」(五十嵐さん)。カフェは両面を窓と照明に挟まれた、豪華列車のような空間が特徴で、「歴史が紡いできた重厚な雰囲気を楽しめる」(富本さん)。菓子にも力を入れており「ジョン・レノンが好きだったアップルパイはリンゴぎっしりの伝統的なレシピでおいしい」(川口さん)。
(1)箱根登山鉄道宮ノ下駅から徒歩約7分(2)1891年(3)9時~21時(4)0460・82・2211
和洋折衷が目を引く(北海道函館市)
函館市旧市街にある、ひときわ目を引く和洋折衷のモダンな建物。回船業で財をなした太刀川家の住宅店舗として建てられた。堂々とした外観と内装は「明治期の成功した商家がどれほど豊かだったかうかがえる」(川口さん)。調度品からも歴史を感じられ「一杯のコーヒーは空間も味わうものだと実感する」(富本さん)。港の雰囲気と一緒に満喫したい。
(1)函館市電大町駅から徒歩3分(2)1901年(3)10時~18時(4)0138・22・0340
そこは童話の世界(青森県弘前市)
弘前出身で日本商工会議所初代会頭も務めた藤田謙一の別邸。モルタル塗りの外壁と赤いとんがり屋根が特徴で「童話のようで愛らしい」(江沢さん)。ステンドグラスは当時のまま。青森らしく「リンゴを使ったスイーツや飲み物がずらりと並ぶ」(川口さん)。弘前城とセットで回ると無駄がなく「混雑しても訪れる価値はある」(富本さん)。
(1)土手町循環バス市役所前から徒歩5分(2)1921年(3)9~17時(4)0172・37・5690
大正時代と現代が同居(千葉県館山市)
「大正期のレトロ洋館と今風のコーヒースタンドが同居している」(音喜多さん)。銀行として鴨川市に建てられ、昭和初期に移築。2016年にカフェに生まれ変わった。改装費の一部をクラウドファンディングで調達し、フェアトレードの豆を使うなど「今の時代感から生まれたカフェ」(高橋さん)。「東京からの距離感もよく日帰りドライブに」(山田さん)。
(1)JR館山駅から徒歩20分(2)1922年頃(3)11~18時(4)0470・49・4688
かつては市長公舎(青森県弘前市)
陸軍師団長の官舎だった木造建築。終戦後は進駐軍の司令官宿舎、弘前市長公舎として使われた。「建物が丸ごとスタバで、部屋ごとに変化のある空間が楽しめる」(川口さん)。「青森の工芸がちりばめられ、インテリアも必見」(江沢さん)。弘前城公園の目の前で「積雪のころ訪れたい」(大西さん)。
(1)弘南鉄道中央弘前駅から徒歩18分(2)1917年(3)7~21時(4)0172・39・4051
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ランキングの見方 数字は選者の評価を点数化。カフェの名称、所在地。(1)アクセス(2)入居する建物(文化財)の竣工年(3)営業時間(4)問い合わせ先。写真は東日本1、2位、西日本1~3位瀬口蔵弘撮影、東日本4位弘前観光コンベンション協会、同6位スターバックスコーヒージャパン、西日本6位松渕得之撮影、ほかは各施設提供。
調査の方法 カフェ専門のライターやコンサルタントらに聞き、建物が文化財に登録されているカフェの中から34カ所を選出。歴史的価値や独自性、居心地の良さなどの観点で順位を付けてもらい、集計した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
五十嵐太郎(東北大学大学院工学研究科教授)▽江沢香織(トラベル&フード&クラフトライター)▽大西貴史(コーヒーコンシェルジュ)▽音喜多孝夫(カフェブロガー)▽川口葉子(東京カフェマニア主宰)▽高橋俊宏(「Discover Japan」統括編集長)▽竹内厚(「美しい建築の写真集 喫茶編」編集者)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽中村あゆみ(ことりっぷ編集部)▽山田祐子(井門観光研究所代表)
[NIKKEIプラス1 2017年11月4日付]
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